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    「ミステリー」開拓した30年…綾辻行人さん

     1980年代後半、謎と論理を重視するミステリーで新風を起こした「新本格」ムーブメント。嚆矢こうしとなった綾辻(あやつじ)行人(ゆきと)さん(56)のデビュー作『十角館の殺人』(1987年)の刊行から30年となる。綾辻さんは「『新本格』の延長線上に現代本格がある。大したジャンルだったと思います」と語る。(文化部 川村律文)

    「新本格」の先駆け

     「新本格」という文言は、綾辻さんの第2作となる88年の『水車館の殺人』の帯に使われた。とはいえ、この言葉は国内外のミステリーで何度か使われてきた。「使い古されているし、『新』という言葉はすぐ古くなる。あまりうれしくはなくて……」と苦笑する。

     この言葉はミステリー新時代の旗印となった。講談社の編集者・宇山日出臣ひでおさんが新人を見いだし、作家の島田荘司さんが推薦文を書く。公募の新人賞でない形で、多くの新人が世に出始めた。綾辻さんに続いて、88年に歌野晶午しょうごさんと法月綸太郎のりづきりんたろうさん、89年に我孫子武丸さんがデビュー。有栖川有栖ありすがわありすさんも同年に東京創元社から『月光ゲーム』を刊行した。

     第一世代としてブームを先導したのは、60年前後に生まれた作家たち。綾辻さんは「リアルタイムで書かれていた日本のミステリーに、物足りなさを感じていたという共通体験がある」と振り返る。当時は社会派推理小説の全盛時代で、本格ミステリーは少数派だった。「絵空事としての探偵小説は程度が高くないという空気の中で、トリックや驚きに奉仕するミステリーもあっていいと思う人が書き手に回った」

     新本格の作品群は、一部のファンから批判を浴びながらも、多くの読者を獲得していく。92年には綾辻さんが「館」シリーズの『時計館の殺人』で日本推理作家協会賞を受賞。94年には京極夏彦さんが持ち込み原稿から『姑獲鳥うぶめの夏』でデビューを飾ると、講談社が95年に募集を開始した「メフィスト賞」は、第1回受賞者の森博嗣さんをはじめ、多くの作家を生んでいく。第二世代の作家の活躍で流れは確固たるものになった。

     その後も「新本格」はホラーやSF、ライトノベルなどとのジャンルミックスを繰り返し、ミステリーの世界を広げてきた。「魅力的な謎がロジックによって解き明かされ、サプライズがある。その形は普遍的に面白いし、他の文芸ジャンルにも取り込まれている。書き手も多様で、30年前より楽しい状況だと思います」

    「館」シリーズ最終作に意欲

     デビュー30年の節目に刊行した『人間じゃない』(講談社)は、都市伝説をテーマにした「赤いマント」や、ホラー色の濃い表題作など単行本未収録の5編を集めた作品集だ。1993年から2016年まで時期は様々だが、「芯は通っている」と語る。

     印象深いのは、06年に宇山さんの急逝を受けて書かれた中編「洗礼」だ。「すごく喪失感が大きくて、ミステリーが書けなくなってしまうのではという気持ちがあった。何とかここで踏ん張らなければいけないと思った」。犯人当てゲームをテーマとした作品には、自らを見いだした恩人への追悼の思いがにじむ。

     本格ミステリーと幻想小説やホラーを車の両輪のように書き続けてきたが、近年は『Another』(角川文庫)などホラーや怪談が増えつつある。一方で、全10作と構想した「館」シリーズについても、最後の1作の刊行に意欲を燃やしている。

     「年を取ると“本格”は難しいので、50代のうちには、という気はしています」

    2017年03月27日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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