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    佐藤愛子さん『九十歳。何がめでたい』

    本質 スカッと痛快に

     93歳になる作家・佐藤愛子さんのエッセー集『九十歳。何がめでたい』(小学館)が驚異的に売れている。

     昨年8月の刊行から8か月。今も週間ベストセラーの上位に入るなど勢いは止まらず、16刷78万部に。読んで悩みが吹き飛んだ読者からは7500通近くの共感の声が出版社に届いている。

    共感、感謝の声 7500通

    • 佐藤愛子さんと『九十歳。何がめでたい』の最終章の直筆原稿。『血脈』や『晩鐘』など、佐藤さんの小説の増刷も相次いでいる
      佐藤愛子さんと『九十歳。何がめでたい』の最終章の直筆原稿。『血脈』や『晩鐘』など、佐藤さんの小説の増刷も相次いでいる

     スマホに戸惑い、デパートのトイレでは流し方が分からない――と、我が身を嘆くだけではない。これ以上の「進歩」は不要と反撃し、<何かにつけて雨後のたけのこのように出てくる「正論」>は<いちいちうるせえ>と一刀両断にする。そうかと思えば、ファンの女性から100歳まで長生きしてくださいと贈られたカマボコに<「何をいうか。人の気もしらず」と腹立ちまぎれにガブリとかじれば、ゆるんでいた入歯がカポッと外れた>りする。際どいテーマを扱っても噴き出してしまうのは佐藤流ユーモアのなせる業だ。

     雑誌「女性セブン」の連載をまとめたこの本は、初版1万4000部でスタート。愛読者カードは当初、高齢者からの「我が意を得たりと元気が出た」(80代女性)、「主人の一周忌も過ぎていないのに声が出るほど笑えたことに驚くと同時に感謝」(70代女性)というような内容が目立っていた。

     しかし、反響が広がるにつれ、「生きるのが面倒と言う母にこの本を届けたらパッと笑顔になってくれた」(60代女性)、「親子げんかをしてしまう母の気持ちが何となくわかった」(40代女性)という娘世代や孫世代からも続々と感想が寄せられ、9歳から99歳まで声が届いている。

     佐藤さんの作品から名文を集めた『人間の煩悩』(昨年9月刊、幻冬舎新書)も11刷20万5000部、講演などを元にした語り下ろし『それでもこの世は悪くなかった』(今年1月刊、文春新書)も5刷19万部と人気を博している。

     小学館の担当編集者、橘高真也きったかまさやさんは語る。「面白いとか楽しいというだけでなく、閉塞感漂う時代の本質や人間関係の有りようが描かれているからこそ、幅広い読者の支持を得ているのでは」(十時武士)

    居心地悪いけど、時代とは面白いもの

     この状況をどう見ているのか、ご本人に話を聞いた。

     もともと私はそれほど本が売れる作家じゃないんです。それがいきなりこういうことになって、どうも居心地が悪くてねえ。れてないものだから。何しろ私は我儘わがまま者だものだから担当の編集者にはいろいろ苦労をかけていますので、喜んでもらえてそれはよかったと思ってます。

     なぜこんなに売れるのかってよくかれますが、それは買った人に訊いて下さいよ。私にわかるわけがないです。私はただ楽しく好き勝手に書いただけなんです。

     私としてはこの頃は日本人もいいたい放題にものをいうようになった、と思っていたのです。いいたい放題いうのは私の専売だと思ってたのに。例えば、「保育園落ちた日本死ね」とか、「子供の声がうるさいから隣りに保育園は作るな」とか――私でもいわないようなことをいう人が増えてるじゃないですか。

     ところが私の所に来る読者の手紙は、いいたいこともいわず我慢していたことを書いてくれてスカッとしたというのが沢山たくさんあって、その我慢派が私の本を買って下さってるらしい。「おぼしきこといわぬは腹ふくるるわざ」と兼好法師が書いているように、腹ふくれている人が沢山いるようです。ソーダ水のことを私の母は「炭酸ムネすかし」といってましたけど、私はムネすかしなんですね。

     後先考えずにいいたいことをいっては憎まれていた佐藤愛子ですけど、その欠点が今は許されるどころか、「勇気をもらった」といわれるんだから、時代というものは面白いものです。

    2017年04月17日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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