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    武田百合子 未収録エッセー集「あの頃」

    娘の花さん「父を大切に、明るかった母」

     作家、武田泰淳の妻で、『犬が星見た』など優れた紀行文や随筆を残した武田百合子(1925~93年)の単行本未収録エッセー集『あの頃』が中央公論新社から出版された。

     娘で写真家の花さん(65)=写真=に「父を一番大切にしていた」という母親の思い出を聞いた。

     百合子は夫の泰淳が76年に64歳で死去した後、富士山麓での夫婦の生活をつづる『富士日記』を発表し、文才を知られ始めた。新著には、好きな街の風景やテレビ、作家の深沢七郎や色川武大のことなど、100余りの文章を集めた。

     「娘が言うのも変ですけど、明るくて面白い人でした」と語る。ただ、文章については、「こんなことを書いたら、父ちゃんに怒られる」と、謙虚な姿勢を生涯、崩さなかったという。

     本を開けば、飾らないのに心のこもった言葉が随所に見つかる。例えば、夫を亡くした後の心境をつづる「お湯」という文章。

     <丸まってお湯につかり、ケッと泣いた。(略)今日、おくやみの電話をかけてくれた親切な誰彼のことを、その人が男であれば(丈夫だなあ。何故死なないのだろう)と、女であれば、(あの人のつれあいだって、いまに死ぬぞ)と、湯舟の中で思ったりなどもする>

     「私は、中学生のころまで父が作家だとは知りませんでした。友達に教えられて初めて知った。なぜ家に父がいて、母親に『父ちゃんが今、部屋にいるから静かにしろ』と言われるのかよく分からなかった」

     「母は決断が早く、何でもさっさと決めた。運転免許も突然に取って家族を驚かせ、父と晩年を過ごした山荘も、母が自分で土地を探して見つけてしまった」。でも、「夜中に作家仲間が急に来ると、家の冷蔵庫にあるもので手早く料理を作った母は、父が亡くなった後、手のかかるものは作らなくなった」と振り返る。

     その文章には、さりげなく悲しみや孤独感がにじむ。(文化部 待田晋哉)

    2017年04月18日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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