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    『あとは野となれ大和撫子』刊行 宮内悠介さん

    逆境笑い飛ばす女性たち

    • 「楽しみながら書いていると思ってもらえる、そして読んだ人がくすくす笑えるような作品にしたかった」=繁田統央撮影
      「楽しみながら書いていると思ってもらえる、そして読んだ人がくすくす笑えるような作品にしたかった」=繁田統央撮影

     宮内悠介さん(38)の『あとは野となれ大和撫子』(KADOKAWA)は、逆境に負けずに国のために立ち上がる女性たちの爽快な物語。「初めて長編らしい長編になった」という自信作だ。

     物語の舞台となるのは、砂漠化が進み、水資源が乏しい中央アジアの架空の小国・アラルスタン。大統領の暗殺とイスラム武装勢力の蜂起で、国の中枢にいた男たちが逃げ出す中、後宮にいた日本人のナツキら若い女性たちが国を運営すべく立ち上がっていく。

     「筋立てはヘビーですが、彼女たちにはそれを笑い飛ばすように頑張ってほしかった」と語るように、後宮に集う女性たちは、そもそも様々な苦難を生き延びてきた移民たちだ。両親を戦禍で失ったナツキだけでなく、大統領代行となるアイシャはチェチェンからの難民でもある。隣国の思惑や大国の論理、武装勢力との内紛などの内憂外患に加え、深刻な環境問題も抱える。国のかじ取りには、常に二重、三重の制約がついて回る。

     それでも、女性たちが軽快な会話を繰り広げ、ユーモアを交えたストーリーは明るい。出自も様々な女性たちが、未来へと希望をつなごうとする力強い物語に仕上がった。4歳からの幼少期をニューヨークで過ごした体験が、作品にも影響している。「多民族が共存している姿というのは、私にとって原風景に近いものがあるんです」

     舞台のモデルになった中央アジアの塩湖・アラル海については、作家デビューのはるか前に、パキスタンの路上で買った中央アジアの旅行ガイドで、存在を知った。旧ソ連時代の大規模な灌漑かんがいなどの影響でかつての巨大な湖は干上がりつつあり、塩害や環境汚染などをもたらして〈二十世紀最大の環境破壊〉とも呼ばれる場所。物語の構想を練り、2年前には現地を約1か月かけて取材した。

     「エコロジカルな視点では海が無くなるのは看過しがたい問題ですが、現実に綿花畑ができている。植物で塩害を食い止めようという動きもある。一概に善悪は問えない」。小説では複雑に絡み合う現実を、多面的に描き出した。

     SF作品の短編集で直木賞に2度ノミネートされてきたが、今年は「カブールの園」が芥川賞候補となるなど、純文学とエンターテインメントの両面で評価を受けている。近作でもSFコメディーの『スペース金融道』や、碁盤師を主人公とした本格ミステリー『月と太陽の盤』など、多彩な作品に挑んでもいる。ただ、「純文学とエンターテインメントの垣根が無くなったとは言いたくない」ときっぱり。「表面上は似ていても、内在するもの、目指すものの違いがある。私の場合は、わがままで向こうみずなので両方書いてしまっている。書いたことのないものを書きたいという“病気”です」と笑った。

     インタビューの最中、質問を受けて、しばしば考え込む姿が目立った。「文章を仕事にしている以上、言葉を軽く扱ってはいけない。それは自分の仕事すべてを軽くしてしまう」

     ゆっくりと、丁寧に言葉を選んだ。(川村律文)

     ◇みやうち・ゆうすけ 1979年、東京都生まれ。2010年に「盤上の夜」で創元SF短編賞山田正紀賞を受賞してデビュー。同名の短編集は直木賞候補、昨年発表の「カブールの園」は芥川賞候補となった。今年4月に『彼女がエスパーだったころ』で吉川英治文学新人賞を受賞した。

    ◎お気に入り

     ★ウェアラブルカメラ 中央アジアでの取材用に買った「GoPro(ゴープロ)」です。小説の描写をする時に、動画の方が役に立つと思いました。アラル海周辺でも撮影しましたが、うかつに軍事施設などを撮ると大変なので、機会は意外に限られていました。

     ★電子メモ帳「ポメラ」 デビュー前に創作のために買ったものです。仕事が忙しかったので、昼休みに喫茶店に入って、開けばすぐ起動できるのがありがたかった。当時から見守ってくれている機械なので、大事にしています。

    2017年05月11日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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