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    鎮魂と笑い 一体の沖縄

    『キジムナーkids』刊行 上原正三さん

    • 「書かれている話はほとんど実際にあった話です」
      「書かれている話はほとんど実際にあった話です」

     思えば、ウルトラマンシリーズは、子供相手でも手加減なしだった。東西冷戦や公害などのメタファーを次々と投入し、ジャミラを始め、怪獣が悪と割り切れない話も多かった。そのシリーズを支えた脚本家の一人、上原正三さん(80)が、終戦直後の自身の体験をまとめた自伝小説「キジムナーkids」(現代書館)を刊行した。ありきたりではない切り取り方で、私たちの「分かった風」な沖縄理解を根底から揺さぶる物語になっている。

     金城哲夫らが活躍したウルトラマンシリーズの脚本家の中でも、「上原正三」と言えば、「帰ってきたウルトラマン」の異色作「怪獣使いと少年」が有名だ。宇宙人とうわさされ、いじめを受ける孤児の少年。暴徒化した群衆を止めようとした宇宙人は悪いことをしていないのに殺害される。差別の構図を扱った展開に、試写を見た放送局幹部が「放送できない」と騒いだという逸話の持ち主だ。だから、ありきたりな本にならないだろうという「予感」はあった。まさに的中した。

     物語は終戦直後、半ば強制的に疎開させられていた熊本から米軍統治下の沖縄に戻ってきたボクが主人公だ。小学5年のボクとハブジロー、ポーポー、べーグァの4人が米軍の車からコーラや缶詰を盗むエピソードで始まる。ガジュマルの木の上に作った秘密基地「キジムナーハウス」に盗んだものを「戦果」と称して持ち込んでは舌鼓を打つ。悪ぶってたばこを吸い、アメリカの雑誌に興奮する少年たちは、何やら楽しそうだ。

     「沖縄の戦争体験を扱ったものには、名著がいっぱいあるので、なぞってもしょうがない。現実が生々しいから、ファンタジーのしゃをかけるには、子供の視点がいいと思った」

     ところが、読み進めると、ソフトになっているはずなのになお、ハッとさせられるほどの「戦争」が姿を現す。ポーポーは右の前腕部がない。戦闘機の機銃掃射を受け、目の前で母と兄を失い、自分も腕を吹き飛ばされたのだ。べーグァはヤギの鳴き声でしか喜怒哀楽を表現できず、いつも赤色のチョウを描いている。それは、好意を寄せていたカナコら村人の自決の様子を見てしまったからだ。

     だが、白眉はそこではないだろう。例えば、ボクたちは、ごちそうを食べたい一心で喜劇役者について葬式に押しかける。参列者は、あの戦争を生き抜いたことを祝おうという役者の理屈に納得し、葬式中にもかかわらずカチャーシーを踊ったり、そうかと思えばカチャーシーをやめて故人を鎮魂したりする。悲しさと明るさが同居する不思議な場面がある。

     「悲しみの向こうに笑いがあり、笑った後に悲しみが待っている。それが沖縄。変に泣かそうとして書いても泣きませんよ」

     18歳の時、パスポートを持って上京して以来、書いてきたものには常に「沖縄からの発想があった」。だから、10年以上前から「この辺りで沖縄のことを書き残しておかなければならない」と思っていたという。

     過去の話に見えて、沖縄の現在と未来に向けて書かれている。ウチナーいくさ(沖縄戦)から72年の夏にまさに読むべき本なのだ。(十時武士)

     ◇うえはら・しょうぞう 1937年沖縄生まれ。シナリオライター。中央大卒業後、同郷の金城哲夫に誘われ、円谷プロに入社。66年の特撮テレビ映画『ウルトラQ』で本格デビュー。69年にフリーに。71年4月に始まった『帰ってきたウルトラマン』でメインライターを務めたのを始め、ウルトラマンシリーズ、スーパー戦隊シリーズ、メタルヒーローシリーズなど数多くの特撮もので活躍した。

    ◎お気に入り

     ★レッドキングの像 約15年前にファンがプレゼントしてくれました。本棚の上からいつも私を見守ってくれています。レッドキングは(ウルトラマンの美術担当の)成田亨さんが「ゴジラを超えてやる」とデザインした怪獣で、私にとっても思い出深い相手です。

     ★石敢當いしがんとうとシーサー 沖縄では普通に、丁字路や家の門の辺りに設置されているもので、20年ほど前から我が家にも魔よけとして置かれています。こういうものが街中にたくさんあるということは、沖縄は魔物と共存しているんだなと思います。

    2017年08月17日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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