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    【回顧2017】ベストセラー 「九十歳」息長く幅広く

     佐藤愛子さんの『九十歳。何がめでたい』(小学館)が年間ベストセラーの1位に輝いた2017年の出版界。児童書と学習参考書が健闘したのも今年の特徴だった。

    児童書、学習参考書が健闘

    • 今年話題になった本の著者。『九十歳。何がめでたい』の佐藤愛子さん(上)と『蜜蜂と遠雷』の恩田陸さん
      今年話題になった本の著者。『九十歳。何がめでたい』の佐藤愛子さん(上)と『蜜蜂と遠雷』の恩田陸さん

     昨年8月の刊行から、1年以上。息の長い売れ方で、11月に100万部を突破し、現在110万部に達している『九十歳。何がめでたい』。ご本人いわく「ヤケクソが籠もった」エッセーだそうだが、快進撃を続けるさまは見ていても痛快で、堂々たるベストセラーぶりだった。

     売れ方だけでなく、読者層が幅広いのも異例だ。愛読者カードは当初、高齢者からの「共感した」という内容のものが目立っていたが、時間がたつうちに、娘・息子世代や孫世代からも続々と感想が寄せられるようになり、現時点で9歳から99歳まで2万通を超えたという。

     売れる理由として、以前から「言いたいことを代わりに言ってくれている本」「高齢の作家の指摘には思わず耳を傾けてしまう」などがささやかれてきたが、担当編集者、橘高真也きったかまさやさんは最近、一つの仮説にたどり着いている。

     「これほど高齢の方が、屈託なく生きていることが年若い読者にとって救いになっているのでは。『何がめでたい』というタイトルとは裏腹に内容は人間賛歌。元気になってもらいたいという思いを込めて、親や友人にプレゼントする人も増えている気がします」

     恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)は、家にピアノがないのに圧倒的な演奏をする天才少年や、再起をかける元天才少女ら4人を中心に、ピアノコンクールを描いた長編小説。史上初の本屋大賞と直木賞のダブル受賞作となっただけあって、年間ベストセラーでも3位入りを果たした。

     2月に発売された、ファン待望の村上春樹さんの書き下ろし長編小説『騎士団長殺し』(新潮社)も順当に5位に。

     一方、児童書の『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)は「サイの角は、ただのいぼ」など、笑ってしまうものから考えさせられるものまでバラエティーに富んだ動物のトリビアを集めた本。大人にも売れ、2位に。「ハリー・ポッター」シリーズ以外の児童書がベスト5に入ったのは2000年以降初で、続編の『続ざんねんないきもの事典』(同)も8位入りした。

     4位になったのは学習参考書の『うんこ漢字ドリル』(文響社)。タイトルの通り、漢字ドリルだが、全例文に「うんこ」を盛り込むというアイデアで人気に火がついた。

     出版科学研究所によると、1~10月の書籍の推定販売金額は6080億円で、前年同期比で2・9%の減。小幅減にとどまっていた昨年に比べ、減少割合が拡大した。また、雑誌はコミック誌の不調が響き、同9・9%減の5407億円と大幅に落ち込んだ。同研究所の担当者は「一部読者層の電子書籍への移行に加え、スマートフォンのゲームの普及など、娯楽の多様化が影響しているのではないか」と話す。(十時武士)

    「顰蹙」から「勇気」に 総合1位佐藤愛子さん

     年間ベストセラー1位を受け佐藤愛子さんから次のようなコメントが届いた。

     私は作家という仕事を商売と思ったことがないので、売れた、売れたというふうに表現されると、だからどうした、と毒づきたくなるのですが、たくさんの人に面白がって読んでもらったと思えば、それは素直に嬉しいです。

     私は昔から同じように好き勝手書いてきて、かつては顰蹙(ひんしゅく)を買ったり()し様に思われたりしていましたから。それが時代が変わって、顰蹙じゃなくて勇気となった。日本人がずいぶんと変わったんだなぁと思いますね。

    年間ベストセラー

    (2016年11月26日~17年11月25日、日販調べ)

    【総合】
    〈1〉九十歳。何がめでたい   佐藤愛子(小学館)
    〈2〉ざんねんないきもの事典
      今泉忠明監修(高橋書店)
    〈3〉蜂蜜と遠雷   奥田陸(幻冬社)
    〈4〉うんこ漢字ドリル  (文響社)
    〈5〉騎士団長殺し(第1部、第2部)
      村上春樹(新潮社)
    〈6〉儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇
      ケント・ギルバート(講談社+α新書)
    〈7〉伝道の法   大川隆法(幸福の科学出版)
    〈8〉続ざんねんないきもの事典
      今泉忠明監修(高橋書店)
    〈9〉モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット
      佐久間健一(サンマーク出版)
    〈10〉新・人間革命(29)   池田大作(聖教新聞社)

    【文庫】
    〈1〉君の膵臓を食べたい   住野よる(双葉文庫)
    〈2〉リバース   湊かなえ(講談社文庫)
    〈3〉豆の上で眠る   湊かなえ(講談社文庫)
    〈4〉火花   又吉直樹(文春文庫)
    〈5〉ナミヤ雑貨店の奇蹟   東野圭吾(角川文庫)
    〈6〉雪煙チェイス   東野圭吾(実業之日本社文書)
    〈7〉アキラとあきら   池井戸潤(徳間文庫)
    〈8〉虚ろな十字架   東野圭吾(光文社文庫)
    〈9〉ぼくは明日、昨日のきみとデートする
      七月隆文(宝島社文庫)
    〈10〉小説 君の名は   新海誠(角川文庫)

    ネガティブさ笑いに

    詩人 暁方ミセイさん

     今年もベストセラー本の購買意欲が高かったのは中年女性たちのよう。高齢者から見た世の中や自分自身を佐藤愛子が痛快に斬る『九十歳。何がめでたい』は自分の母親に贈り、生存のために背に腹はかえられぬ悲しい進化を遂げた動物たちを紹介し、切なくて笑える『ざんねんないきもの事典』や『うんこ漢字ドリル』は子どもや孫にプレゼント。実は自分でこっそり読んでクスッとしたりもした。陰気・面倒くさい等のキャラクターが共感・支持される今らしい、ネガティブさを笑いに変えるラインアップだが、みんな来年も強く生きてほしい。

    「泣ける」よりも「怒り」

    精神科医 春日武彦さん

     文庫本のリストを眺めても、既視感しか覚えられない。単行本ベストセラーが文庫に形を変えただけだなあ、と。

     では総合のリストはどうか。「泣ける」本や感動する本を抑えて「怒り」の本がトップである。

     そして『ざんねんないきもの事典』正続と『うんこ漢字ドリル』――3冊の児童書がランクに入っている。自嘲と自暴自棄にあふれた今年の空気を反映している気がしないでもない。

     ことに『ざんねんないきもの事典』は、子ども向けながら共感や微苦笑が切々と生じるあたりに、凡庸な文学よりよほど文学的であるのがかえって物悲しい。

    お金と人口未来を心配

    文芸評論家 佐藤康智さん

     アドラー心理学ブームに乗ってテレビドラマまで作られた『嫌われる勇気』を抑え、『はじめての人のための3000円投資生活』がビジネス書トップ。マイナス金利政策下、貯金だけでは心もとない、月数千円なら投資もアリかもと、この本に税込み1188円を投資した人が多かったようだ。未来の心配はお金だけでない。人口激減後の日本を見据える『未来の年表』もよく売れた(新書ノンフィクション3位)。そんな中、長生きしても平穏はないぞと、現代社会に食ってかかる『九十歳。何がめでたい』が総合トップ。読めば、未来を心配し過ぎてもしょうがないという気分になり、清々すがすがしい。

    2017年12月21日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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