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    【エンタメ小説月評】「不要な物」が織りなす幻想譚

     片付けが苦手な人は、物を捨てることが不得手だ。自らを省みて、つくづくそう思う。いつか再読すると棚に置いたままの本や、何かに役立つと死蔵した資料の何と多いことか。不要な物に愛着を持ってしまうのは、始末に負えない性分だ。

     だから、イギリス生まれの作家、エドワード・ケアリーによる三部作に、ひとごととは思えずに引き込まれた。19世紀のイギリスを舞台に、ロンドンのゴミによって財を成し、くず山の中にある屋敷で暮らしていたアイアマンガー一族を巡る物語だ。最終巻『肺都』(東京創元社、古屋美登里訳)では、居場所を追われた一族が、彼らが「肺都(LUNGDON)」と呼ぶロンドンへと潜り込む。街は闇に覆われ、謎の病が蔓延まんえんしていく。

     ゴミや汚物、ねずみ、そして不要に見える物たちが織りなす幻想たんの中で、一族の若者・クロッドと、召使めしつかいのルーシーのボーイ・ミーツ・ガールの物語がつむがれる。演劇のようなセリフのやりとりと豊富な言葉遊び、作家自身による挿絵の数々が、ゴシック小説的な物語の魅力を増していく。清濁、貴賤きせん、そして生死などの概念が混然一体となった、奇想の大作だ。

     続いては、同じく19世紀を舞台にした時代小説を。月村了衛りょうえコルトM1847羽衣』(文芸春秋)は、江戸時代末期の佐渡を舞台に、銃を手にした渡世人・羽衣おえんを主人公とする長編だ。心を通わせた男の消息を追って島に着いたお炎は、金山に巣くう謎の新興宗教と陰謀に巻き込まれていく。

     「四四口径」のリボルバーを使うお炎と、軽業師のおみんや、汚れ仕事を担う与四松ら、アウトローな人物たちが、矜持きょうじを見せて躍動する。懐かしさすら感じるほど正統派の活劇だ。「機龍警察」シリーズなど時代の最先端と切り結ぶ作品も多い著者だが、けれん味なしに娯楽小説の王道を歩もうとする気概が伝わってくるようだ。

     同じくノワール(暗黒小説)の雰囲気を濃密にまとったデイヴィッド・C・テイラー『ニューヨーク1954』(ハヤカワ文庫、鈴木恵訳)を次に取り上げる。舞台は、共産主義への弾圧が激しくなっていた1954年のニューヨーク。市警のキャシディ刑事は、拷問の末に殺された男のダンサーの事件を調べることになる。ただ、捜査にはFBIから待ったがかかり、キャシディの周囲の人間もトラブルに巻き込まれていく。

     薄汚れた街にあって、誇りを失わない男の物語。そう書くと、ちょっと古めかしい筋立てに思えるかもしれない。それを新しく感じられるのは、“赤狩り”の嵐が吹き荒れていた時代と、不寛容さが広がる現代の閉塞へいそく感とが二重写しになり、心を揺さぶるからだろう。ニューヨークで生まれ育ち、テレビドラマにも関わったという著者ならではの映像的な描写も楽しい。

     最後に、道尾秀介『風神の手』(朝日新聞出版)を取り上げたい。遺影専門の写真館がある街での、過去と現在を巡る三つの作品と、エピローグにあたる短編を収録したミステリーは、エピソードの断片が関連し、一つの長編のような味わいとなる。

     小さなうそや隠し事が、自分だけでなく、周囲の人生を波立たせる。そして長い年月を経て、新たな縁が生まれていく。数奇な運命と歳月の重みを仕掛けの中に込めていく、鮮やかな手さばきにため息が出た。(文化部 川村律文)

    ★5個で満点。☆は1/2点。

    エドワード・ケアリー『肺都』

    奇想につぐ奇想 ★★★★★
    グロかわいさ ★★★★
    満足感 ★★★★☆


    月村了衛『コルトM1847羽衣』

    活劇小説の魅力 ★★★★☆
    懐かしさ ★★★☆
    満足感 ★★★★


    デイヴィッド・C・テイラー『ニューヨーク1954』

    ノワール度 ★★★★
    設定の巧みさ ★★★★☆
    満足感 ★★★★


    道尾秀介『風神の手』

    ミステリー度 ★★★★
    郷愁を喚起 ★★★★
    満足感 ★★★★

    2018年01月25日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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