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    【文芸月評】真っすぐな心取り戻す

    先住民、異文化…未知との出会い

     今月の文芸誌は、文学作品に触れる喜びとは、自分が知らないものに出会い、真っすぐな気持ちを取り戻させることだと改めて思い出させた。

    • 国分拓さん
      国分拓さん

     「新潮」先月号から2回分載されたNHKディレクター、国分拓さん(53)の「ノモレ」は、ペルーのアマゾン奥地を舞台にした物語風のノンフィクション作品だ。主人公は、学校教育を受ける機会に恵まれた先住民の男性、ロメウ。集落のリーダーを務める彼は、文明社会に全く触れたことがない「イゾラド」と呼ばれる人々が近くに現れたと聞く。2015年、彼はついに川を挟んでイゾラドの男2人と遭遇した。ロメウは彼らに向け、自らの部族の言葉で叫ぶ。

     ノモレ! ノモレ!

     それは、「友達」や「仲間」を意味する言葉だった――。

     先住民を迫害し発展した南米の歴史、加速する自然開発と環境破壊、現代社会で先住民の尊厳をいかに保つか。本作は、幅広い問題を考えさせる。だがそれ以上に、腹に響くのは「ノモレ」の言葉だ。

     文明社会に接触したことがない男たちは、その言語や行動原理が分からない。いわば異星人のような存在だ。それでも、ロメウは友よと呼び掛けた。その声は読者に見ず知らずの存在と会った際、排除する側でなく、まず受け入れる側に立ちたいと思わせる。

     国分さんは、アマゾンの森で生活するヤノマミ族とともに暮らした体験をつづる『ヤノマミ』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。自然とほぼ一体化して暮らす人々のき出しの生と死、友愛の感覚が、文明人を覆う心のほこりをそぎ落とす。

    • 岩城けいさん
      岩城けいさん

     オーストラリア在住の岩城けいさん(46)の「Matt」(すばる)は、父親の仕事のため、同国に日本から家族で移住し、地元の学校に転校した少年の真人を描いた前作「Masato」の続編だ。

     真人は思春期に差し掛かり、会社をやめて起業した父と暮らし、日本に帰国した母とは別々の生活を送る。題名が想像させる通り、現地の教育を受け、オーストラリアでの生活に染まってゆく。

     平仮名や片仮名、英語が交じった会話文は、多様な子が通う学校のざわめきが聞こえるかのようだ。10代の少年が母語でない英語を習得する過程を、日本にしか住んだことのない人間にも体感させる。

     言語とともに、真人少年には、人種間の心理的な壁、日豪に影を落とす歴史の傷など様々なものが流れ込む。悩みながら南半球の真っ赤な太陽の方へ向けて進む少年の姿は、各個人の葛藤を乗り越え多文化共生を目指すオーストラリアの社会とも重なり合う。

     小説の言語や感覚の鋭さが刺さってくる詩人として活躍する筆者の2作もあった。

     日和聡子さん(43)の「水先人のない舟」(文芸春号)は、10編を収めた掌編集だ。土俗的なにおいがする「河童」、抑えた文章にエロスが漂う「ぶどう」。迷子に憧れる子どもが出てくる「丘」など、不思議な話もある。小さなビーズの玉のような各編は、色彩を伴って心の中に残る。読み進むうちに、切れたり、つながったりして面妖な輪を作る。

     四元康祐さん(58)の「奥の細道・前立腺」(群像)は、前立腺がん手術に至るまでの体験を物語化した。性的機能を失う覚悟を迫られた苦しさを距離を置いて見つめるため、四元さんは松尾芭蕉の紀行『奥の細道』の手法を使う。旅情に文章が流されないよう俳句を挟んだ芭蕉と同じく、一連の経緯を記す文章に各種の韻文を配して引き締めた。

    • 村田喜代子さん
      村田喜代子さん

     村田喜代子さん(72)の連載「飛族」(文学界、2016年5月号~)も完結した。地上からの高度が80キロ~800キロ離れた熱圏に夢の中でたどりついたと語る鉄鋼マン。体がふわっと浮く体験をした女性。海で嵐に巻き込まれて船が沈みかけ、「空ば飛べっ! 漁師には隠し羽根がある!」と叫んだ九州の離島の漁師と、彼の帰りを待つ妻――。

     飛ぶことに魅せられた者たちをめぐる著書の年季の入った語り口は、読み手の背中から、使い方を忘れていた青白い羽を引きずり出すのだ。(文化部 待田晋哉)

    古典文学を自在に解釈

     「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」で古典文学の現代語訳を担当した書き手が魅力を語った『作家と楽しむ古典』(河出書房新社)が出版された。同シリーズの2冊目で、高橋源一郎さん、内田樹さんら第一線の筆者の自在な作品解釈が楽しい。

     エッセイストの酒井順子さんは、「うつくしきもの」「にくきもの」など、テーマを設けて書く手法を用いた清少納言の随筆『枕草子』を、「あるあるネタ」のパイオニアと呼ぶ。作家の中島京子さんは、『堤中納言物語』の男性の登場人物には、気になる姫君に接近する「ドンドン系列」と逡巡しゅんじゅんする「グズグズ系列」が存在すると分析する。堀江敏幸さんは『土左日記』を現代語訳した際、自らの小説『その姿の消し方』の準備もしており、言葉について考えるうえで相補的な関係にあったと明かした。

    2018年02月09日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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