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    短編集『焔』を刊行…星野智幸さん

    社会を作り直す価値観

    • カラスを題材にした短編もある。「家からカラスを見ていると親しみがわいてきて、こちらを見てるかななどと想像してしまいます」=萩本朋子撮影
      カラスを題材にした短編もある。「家からカラスを見ていると親しみがわいてきて、こちらを見てるかななどと想像してしまいます」=萩本朋子撮影

     現代文学の最前線を走り続ける作家の星野智幸さん(52)が、短編集『(ほのお)』(新潮社)を出版した。社会に広がる息苦しい空気や貨幣万能の風潮への疑問、差別的な言説への怒り。今の時代が抱える問題を、鋭く閃光が貫くような9編に昇華した。

     「現代は他人をバッシングしたり、差別したり、切り捨てることが人々のエネルギーになっているのではないか。でも、それは死へのエネルギー。どうすれば生のエネルギーに転換できるのか考えていました」

     ある年の8月6日、これから9日間続くことになる40度超えの日々が始まった。暑さでぬるま湯になった池、きりもみ回転するように水に飛び込むスズメ、ジャンプして回転する魚……。気がつけば、人間たちも一心不乱に回っている。

     止まれない彼らは、加速度的に変化し、競争を強いる資本主義社会を生きる者たちの象徴なのか。冒頭の「ピンク」から、異様に切迫した世界が展開される。

     「小説はメッセージを伝えるものではありません。ある体験を読者に差し出すものです。今この現在に、破滅が同居するように存在している世界の感覚。そこに住む人々を書けたらと思っていました」

     金本位制ではなく、人間が一定の通貨に交換できるようになった世界を描く「人間バンク」、介護疲れの人に向けて「お年寄り、引き取ります」と誘う謎の団体が現れる「何が俺をそうさせたか」。当初から短編集を目指したわけではないのに、2011年から書き継いだ短編は現代の陰画のような作品群となった。

     ヘイトスピーチをはじめ社会の不穏な動きに怒りの声を上げ、時に先鋭的な作品を書く著者は、普段は穏やかな人だ。だが2004~07年まで大学で創作を教えた際、授業に出ていた3人の学生が自殺したことが、心に重い傷を残す。

     「未来の担い手が自分より先に亡くなることは、未来自体が消えてゆくように感じた」。その後、東日本大震災が起き、「個人的な喪失体験が普遍化してのしかかってくるようだった」。

     その気分の中で、自らが影響を受けたラテン・アメリカ文学が憑依ひょういしたような奇想が続く読売文学賞受賞作『夜は終わらない』を執筆した。今著のほか、4巻本からなる自選作品集「星野智幸コレクション」(人文書院)を編んで自らの作家生活を振り返った。

     「世の中は、若者を死に追い込むように壊れてしまっている。でも、何年か先に社会の作り直しにつながるような価値観を提示することも大切だと思う。色々な立場や価値観の違いがある中で、様々な混淆こんこうがあってこそ、そこから新しいものが生まれる」

     現在以上に国際色が豊かな相撲界をつづる最後の一編「世界大角力共和国杯」には、その願いをこめた。

     文筆に追われながら、最近は相撲観戦に熱中する。「自分でも説明できない何かに、のめりこんでしまう」。1月下旬の大雪の際も国技館へ観戦に行き、雪を気にして途中で帰る人が多い中、最後まで観戦を続け、夜遅くに家に帰った。

     書く時間も、そのほかの時間も手が抜けない性格だ。(待田晋哉)

     ◇ほしの・ともゆき 1965年米・ロサンゼルス生まれ。早稲田大卒。新聞社勤務後、メキシコに留学。97年「最後の吐息」で文芸賞を受賞しデビュー。2011年に『俺俺』で大江健三郎賞を受賞。相撲に関するエッセー『のこった』などの著書もある。

    ◎お気に入り

    • 星野智幸さんのお気に入りの「買い物バッグ」=萩本朋子撮影
      星野智幸さんのお気に入りの「買い物バッグ」=萩本朋子撮影
    • 星野智幸さんのお気に入りの「トルタグッズ」=萩本朋子撮影
      星野智幸さんのお気に入りの「トルタグッズ」=萩本朋子撮影

     ★買い物袋 宮古島で買いました。仕事柄、家に引きこもりがちなので、まとめ買いはせずに、1日1回はお店へ出掛けて食材を買うようにします。牛乳パックを横にして二つ入れられて便利です。

     ★トルタグッズ メキシコの「トルタ」というサンドイッチが好きです。留学したとき、安くておなかがいっぱいになるのでよく食べました。さけるチーズとハムが入っているのがおいしかった。そのグッズです。「武器を捨て、トルタを食べよう」と書いてあります。

    2018年02月15日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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