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    ヒット作続く原作者 樹林伸さん

    絵と物語 分業の勧め

    • 「マンガ原作は、文章を練り込む必要がない分、アイデアとスピード感が勝負だ」と語る樹林さん
      「マンガ原作は、文章を練り込む必要がない分、アイデアとスピード感が勝負だ」と語る樹林さん

     最近、話題の「金田一37歳の事件簿」(講談社「イブニング」で連載中、画・さとうふみや)と『島耕作の事件簿』(画・弘兼憲史)。2作に共通するのは、原作者が同じであること。マンガは絵だけではなく、物語も重要な要素を占める。2作を含め、数多くのヒット作を手がけたマンガ原作者の樹林伸きばやししんさんに、マンガ原作への思いを聞いた。(川床弥生)

    「金田一37歳の事件簿」『島耕作の事件簿』

     樹林さんの代表作は1992年に「週刊少年マガジン」で連載が始まった天樹征丸あまぎせいまる名義の『金田一少年の事件簿』。名探偵・金田一耕助の孫である主人公の高校生・金田一はじめが、IQ180の頭脳で殺人事件を解決する。元々マンガでミステリーをやりたいという思いから生まれた作品で、複雑なトリックや人間の悲哀を描き、シリーズ累計8500万部の人気作となった。

     その金田一が今作では、PR会社に勤める37歳のさえないサラリーマンになった。しかも「もう謎は解きたくないんだあああ~!!」と事件解決にかなり後ろ向きな姿で描かれる。

     「天才高校生探偵にマンネリ感があった。普段はどこにでもいるさえないサラリーマンだが、事件解決の時だけ力を発揮する、そんな金田一を描きたかった」と明かす。また、青年誌は少年誌と比べ規制も緩く、表現の幅も広い。「もっとリアリティーを出せるし、事件以外の物語も描ける」

     金田一に対する思い入れは強い。「『謎はすべて解けた』という決めゼリフに代わるものも考えました。そのうち出て来ます」

    • 青年誌「イブニング」で連載中の「金田一37歳の事件簿」
      青年誌「イブニング」で連載中の「金田一37歳の事件簿」

     樹林さんの場合、原作はシナリオ形式で、キャラクターの動きやセリフを書く。金田一はトリックの説明も入るので1回当たり、400字詰めで約20枚。そして、原作を基にマンガ家が描いたネーム(コマ割り)をチェックする。

     新人のマンガ家相手には「面白い演出を学んでもらうために、ネームを直すこともある」が、弘兼さんとコラボした島耕作の作品では「元々のリズムを大事にしたい」と極力直さなかったという。課長時代に設定し、島耕作らしい女性トラブルから犯人にされてしまう物語にしたのも元の作品を尊敬するが故だ。

     原作を書くのは1、2日だが、アイデアを練るのには1週間ほどかかる。「トリックやストーリーのアイデアは降ってくるとしかいいようがないが、手品の本や新聞を参考にしています」

     小説も書く一方、なぜマンガ原作なのか。「マンガ原作は読者の評価がはっきりしてフェア」と感じるからだという。亜樹直名義の『神のしずく』や安童夕馬名義の『サイコメトラーEIJI』など、原作者として多くの名前を使い分けるのも、先入観を与えずに作品だけで勝負したいからだ。

     原作と作画の分業について、「(読者の目が肥え)より高いレベルの絵を求められる中、週刊誌で濃密な絵を描くのは大変な作業。物語を考えながら絵も描くのは、よほどの天才でない限りもたない。分業も一つの成功の形と思う」と話す。

     最後に聞いた。マンガ原作者に大切なことは。「一番大事なのはマンガが好きだということです」

    原作に特化した新人賞募集も

     マンガの現場では、原作と作画の分業を後押しする動きも現れている。講談社は「週刊少年マガジン」と「モーニング」の両誌合同で、マンガ原作(脚本)に特化した新人賞「漫画脚本大賞」の募集を始めた。「物語を作るのはうまいが、絵が描けない人」とマンガ家をマッチングし、新たなマンガを生み出すことが狙いだ。『ゴルゴ13』の作者さいとう・たかをさんも、シナリオと作画の分業体制で作られた優れたコミック作品を表彰する「さいとう・たかを賞」を創設した。マンガの分業は加速しそうだ。

    2018年03月08日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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