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    【エンタメ小説月評】老いと死を見つめて

     芥川賞受賞作の若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』(河出書房新社)がベストセラーになっている。著者は60代前半だが、70代の主人公を通して老いや孤独を見つめる作品が共感を呼んでいるのだろう。近年は高齢の著者によるベストセラーも増えている。

     老いや死をテーマにした作品は、今後も増えてくるだろう。60代後半の男性主人公を扱った2作を読んでその感を強くした。小池真理子『死の島』(文芸春秋)は、病気で死を前にした男を巡る長編小説だ。かつて文芸編集者だった69歳の澤は、がんの再発とともに小説講座の講師を辞めてから、受講生だった26歳の樹里と交流を始める。

     尊厳死を選んだかつての恋人を思い、季節の移ろいに感傷的になる。一方で、樹里にすがろうとする自分を冷静に見つめる。単なる師弟ではなく、恋人同士でもない2人の視点で物語は進み、澤の心の揺れを丹念に描き出していく。2人の感情が交錯する後半の場面は、生々しすぎて少し困惑さえ覚えるほどだ。その混沌こんとんとした様子が、死に向き合うことの難しさを表現しているようで興味深い。

     一方で、病を得ても力強い67歳を主人公にした作品が、スウェーデンの作家レイフ・GW・ペーションの『許されざる者』(久山葉子訳、創元推理文庫)だ。国家犯罪捜査局の元長官であるヨハンソンは、脳梗塞こうそくで倒れる。療養中の彼のもとに、時効を迎えた少女殺人事件についての相談が持ち込まれる。

     25年前の事件の犯人を割り出し、つけを払わせることはできるのか――。シンプルな筋立ての物語を豊かにしているのは、巧みな人物造形だ。思うように頭も体も動かず、疲れやすい。不自由さを抱えながら、精力的に事件に対峙たいじするヨハンソンだけでなく、介護士や世話係のロシア人青年まで、キャラクターがいきいきとしている。<状況を受け入れろ>。ヨハンソン自身が作った“殺人捜査の黄金の三カ条”の言葉が、効いてくる展開も見事だ。

     医療小説を通じて老いや死を描いてきた久坂部羊の『祝葬』(講談社)は、短命な医師の家系にまつわる物語だ。その一人である佑介は、親友の手島に不可解な言葉をかける。「もし、君が僕の葬式に来てくれるようなことになったら、そのときは僕を祝福してくれ」。そして、佑介は37歳で命を落とす。

     医師と患者のコミュニケーションの断絶や、過剰な医療の是非という、医師である著者が繰り返し挑んできた題材が、一族の因縁とともにつづられていく。長寿や医療が本質的にはらむような不条理を、短編を連ねて鋭くえぐり出した。

     最後は少し気分を変えよう。宮内悠介『超動く家にて』(東京創元社)は、異色の館ものミステリーである表題作や、著者の出世作となった『盤上の夜』(創元SF文庫)に入れる計画があったという「星間野球」などを収録した短編集。おもちゃ箱をひっくり返したような、というありがちな言葉では、この面白さを表現するのは難しい。

     <馬鹿をやるというのはぼくにとって宿痾しゅくあのようなもの>。バカSFとも呼べるような作品を含んだ作品集は、あとがきまで諧謔かいぎゃくたっぷりだ。ユーモアの後から、理性や叙情性が不意に薫り立つ。純文学やシリアスなSFとはまた違った形で、この作家の才気を楽しめる。(文化部 川村律文)

    ★5個で満点。☆は1/2点。

    小池真理子『死の島』

    共感度 ★★★★
    生々しさ ★★★★☆
    満足感 ★★★★


    レイフ・GW・ペーション『許されざる者』

    キャラクターの魅力 ★★★★☆
    ミステリー度 ★★★☆
    満足感 ★★★★


    久坂部羊『祝葬』

    闇の深さ ★★★☆
    不条理度 ★★★★☆
    満足感 ★★★★


    宮内悠介『超動く家にて』

    奇想の多彩さ ★★★★
    遊び心 ★★★★☆
    満足感 ★★★★


    2018年03月22日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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