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    母のヒット支えた娘…谷口由美子さん

    『大草原』原型となった覚書を翻訳

    • 「自分をしっかり持っているローラの女性としての生き方にひかれますね」(東京都内の自宅で)
      「自分をしっかり持っているローラの女性としての生き方にひかれますね」(東京都内の自宅で)

     アメリカ開拓時代の暮らしを描いたローラ・インガルス・ワイルダー(1867~1957年)の「大草原」シリーズ。その原型となった覚書に解説と注釈が付いた『大草原のローラ物語――パイオニア・ガール』(大修館書店)が谷口由美子さんの翻訳で出版された。物語の成立に深く関わったローラの娘の役割を明らかにするとともに、ローラの作家としての資質や成長を浮き彫りにする。

     米国でテレビドラマ化され、日本でも放映されて人気を博した「大草原」シリーズの著者ローラが、覚書を書きあげたのは1930年。アメリカは大恐慌のただ中だった。「ローラの一人娘で作家のローズ・ワイルダー・レインは、母親に子供時代のことを書くよう促していた。出版して成功すれば、家計の助けになると考えたのです」と谷口さんは語る。

     「むかしむかしのこと」で始まる一人称の覚書は、ローラが自分の2~18歳までの出来事を大人向けにノートに手書きしたもの。ローズがタイプ打ちし、出版社などに売り込んだものの、日の目を見なかった。

     ローズはこれを三人称で子供向けに書き直すよう母に提案。「ローラが書き、ローズが手を入れるという二人のチームワーク」(谷口さん)の中から『大きな森の小さな家』『大草原の小さな家』『長い冬』などの児童書が次々に生まれ、大ヒットした。作品は今では、米国児童文学の古典だ。

     成功のカギは「一人称から三人称にしたこと。ノンフィクションからフィクションへの大胆な転換を可能にし、物語に自由度が与えられた。それが、本書で鮮やかに解説されています」と谷口さん。覚書には詳細な注釈が付けられ、どのように整理され、物語化されたのかを教えてくれる。

     アメリカでの刊行は2014年末。シリーズの「ネタ本」ともいうべき覚書の存在は研究者の間では知られていたが、一般の目には触れてこなかった。解説と注釈は、ローラ研究家で作家のパメラ・スミス・ヒルさん。ローラとローズの、時に激しいやり取りも交えた共同作業について詳述している。ローズが、覚書の中のエピソードを無断で自著に使い、母を怒らせたことも明かしている。谷口さんは、15年に米国で開かれたローラ学会でヒルさんに会い、本書の翻訳でも多くの示唆を得たという。

     最近では「ローラに文才はなく、シリーズの真の著者はローズ」とする研究者もいるという。だが、谷口さんはそれを否定する。「覚書にはローラの語り口のすばらしさや、優れた描写力がすでに現れている。また、後半にいくにつれ、ローラが書き手として腕をあげたことも分かります」

     谷口さんは「できれば出版されている作品と比べながら読んでほしい」と話す。ローラの宿敵「意地悪ネリー」は「複数のモデルがいたのを、一人にまとめたものです」。物語の強烈なスパイスだった彼女は、作家の想像力の賜物たまものだったことも本書で分かる。

     母を世に出すきっかけを作ったのは娘だが、母もそれに応えて才能を開花させた。そんな母娘の物語も読者の関心を呼ぶに違いない。(渡部恵子)

     ◇たにぐち・ゆみこ 翻訳家。山梨県出身。上智大学外国語学部英語学科卒。アメリカに留学後、児童文学の翻訳を手がける。著書に『大草原のローラに会いに――「小さな家」をめぐる旅』(求龍堂)、訳書に『長い冬』などローラ物語5冊(岩波書店)、『青い城』(角川書店)など。今は、今年出版150周年の『若草物語』の新訳に取り組んでいる。

    ◎お気に入り

     ★ビオラ 幼い頃から習っていたのはバイオリンだが、大学で管弦楽部に入ると「背が高いから」とビオラを弾くように言われ、以来趣味に。今も市民オーケストラで月に数回合奏し、定期演奏会にも出演する。1970年代から愛用の楽器は、弦楽器製作の本場イタリア・クレモナで修業した大学の先輩が作ったもの。

     ★蔵書票 友人の版画家、林美紀子さんに、今回訳した本のために特別に注文したのがこれ。大草原をイメージした色彩で、サイン会などでプレゼントしている。これとは別に、自分用に作ってもらっているのはピンク系。

    2018年04月13日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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