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    復刊 売れ行き好調

    新鮮な驚き 面白さ不変

    • 復刊後、好調な売れ行きを見せている『コーヒーと恋愛』の著者・獅子文六(上)と、『辞令』の著者・高杉良さん
      復刊後、好調な売れ行きを見せている『コーヒーと恋愛』の著者・獅子文六(上)と、『辞令』の著者・高杉良さん

     時がたっても、良いものは良い。何も洋酒やクルマに限った話ではない。小説も“命”が長いという点では、その最たるものの一つだ。1937年刊行の名著を漫画化した『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)が200万部に達したのは記憶に新しいが、実は他にも、復刊されて驚くべき売れ行きを見せている本がある。担当者に狙いや思いを聞いた。

     文化勲章受章者でありながら、長年“忘れられていた”昭和の人気作家・獅子文六(1893~1969年)。2013年からちくま文庫で続々と作品を復刊し、再ブームを演出したのが、筑摩書房の窪拓哉さん(38)だ。「歴史的な意義があるから」ではなく「今読んでも面白い」という姿勢で作品を選んだ。

     復刊第1弾は代表作とは言えない『コーヒーと恋愛』。テレビの草創期、お茶の間の人気女優・坂井モエ子のもとから、若い男の同居人が若い女優の所へ去ってしまう。悲しむモエ子はコーヒー愛好家の友人に相談するが……。窪さんが大学時代に好きだったロックバンド、サニーデイ・サービスに「コーヒーと恋愛」という曲があった。「その曲の元ネタがこの小説と知り、古書店で探して読んだら面白かった」と語る。

     装丁や解説にも工夫を凝らした。手書きの帯もその一つ。<50年前の作品が、こんなに楽しく読めるなんて新鮮な驚き>という文言に思いが詰まっている。

     第4弾の『七時間半』は東京―大阪間が7時間半だった時代、特急列車「ちどり」で起きる恋のドタバタ劇を描いたコメディーで、生前も文庫化されていないほどのレアな作品だったが、「現代のエンタメ作家に負けないスピード感が魅力」と復刊に踏み切った。その後は3か月連続や2冊同時に復刊するなどスピードアップ。「読者にも一緒に文六作品を発掘する“体験”を楽しんでもらおうと心がけた」

     この成功を見て他社も追随。文六作品の復刊は、ちくま文庫だけで12冊、計25万5500部に。「レトロだが新鮮。何より底抜けの明るさがある。NHKの朝ドラ的な感覚が受けているのでは」と窪さん。

    文庫化3回目で増刷

     「1桁多くない?」。経済小説のベテラン作家・高杉良さんは、自著『辞令』が5万部増刷と聞いて、思わずそう口走ったという。この作品が刊行されたのは88年。集英社と新潮社で文庫化され、現在の文春文庫版は3回目だった。

     大手メーカー宣伝部副部長の広岡修平は突然、左遷の内示を受ける。有能で人柄も良く、大きなミスもないのになぜ……という内容。仕掛けた文芸春秋文春文庫部の瀬尾巧さん(38)も、売れ行きに驚いていた。購入者の中心が、60~70代から40~50代へと若返り、ターミナル駅の書店などで予想外の部数が出ていた。

     昨年11月の復刊から約5か月で6刷計14万3000部に達した。「携帯電話もパソコンも普及していない30年前の話なのに、古びた印象がない。作品の力でしょう」と瀬尾さんは舌を巻く。6月には、高杉さんの別の著作『懲戒解雇』(85年刊行)も復刊予定だが、文庫として出るのは「弊社で5回目です」という。

     高杉さんは語る。「最初は驚いたが、言われてみれば、人の思いは時代が違っても変わらないということでしょうか」

    本屋大賞で「超発掘本」に

     名著の再ヒットには、書店員が大きな役割を果たしたものもある。1993年刊行の折原一さんの『異人たちの館』は過去に2回文庫化されたが、10年以上、絶版状態が続いていた。この作品に感動し、書店員を志したという勝木書店(福井市)の樋口麻衣さん(35)は、一昨年11月に文芸春秋から3回目の文庫が出ると、手書きのポップで猛アピール。増刷が決まり、今年の本屋大賞で「超発掘本」に選ばれた。授賞式で樋口さんは「思いを込めたポップにはお客さんも反応してくれる。やはり気持ちが人を動かすのでは」と語った。最近はこの他にも、書店員が復刊を提案する例や、出版社が読者から直接、復刊希望を募る例もあるという。(十時武士)

    2018年04月27日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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