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    マンガ大賞 動物主役に人間風刺…『BEASTARS』板垣巴留さん

    偏見 ユーモラスに可視化

     動物が人間のように生活する世界を描く板垣巴留ぱるさんの『BEASビースTARSターズ』(秋田書店、既刊7巻)は、ファンタジーの中に鋭い人間風刺や社会批評を含む異色作だ。今年のマンガ大賞を受賞し、読者の支持も熱い。いったい、何が新しいのか。

    肉食獣の草食系男子

    • 座っているのがレゴシ、右隣のウサギがハル。タイトルの「BEASTARS」とは、すべての動物の頂点に立つ存在。それに誰がなるかも物語の焦点だ (c)板垣巴留(秋田書店)2017
      座っているのがレゴシ、右隣のウサギがハル。タイトルの「BEASTARS」とは、すべての動物の頂点に立つ存在。それに誰がなるかも物語の焦点だ (c)板垣巴留(秋田書店)2017
    • 板垣巴留さんの自画像
      板垣巴留さんの自画像

     「すごい変なマンガなのに、受け入れてもらって驚き」。3月22日、東京都内で行われたマンガ大賞授賞式での板垣さんの第一声だ。デビュー2年、24歳の板垣さんは素顔を公表していない。壇上では本作に登場するメンドリのレゴムのかぶり物姿であいさつした。

     草食獣と肉食獣が共存する世界にある全寮制の学園が舞台。ハイイロオオカミのレゴシは大型肉食獣なのに、性格的には“草食系男子”。そんな彼が、こともあろうにドワーフウサギのハルに恋心を抱く。しかしその感情は、相手を「食べたい」というオオカミの本能とも混ざっていて……。こんな青春マンガ、私は読んだことがない。いったい、どういう発想なのか。

    ウソのない世界

     「子どもの頃から動物好きでした」と板垣さん。しかも食う食われるの関係に強い関心があったという。「強いものは命を奪う。弱いものは必死に逃げる。そんな関係が美しいなと感じていて……動物としてウソがないといいますか」

     では、人間界にはウソがある? 「私も人間ですから道徳とか倫理感は大事だと思います」と苦笑しつつ「でも何か寂しいな、違うなと感じることもあって」。

     「人間でなく、動物が文明を築いている」世界のアイデアは、子どもの頃にほぼ完成していた。ディズニーの「ライオンキング」なども好きだった。美大で映画を専攻しつつ、大学4年の時にマンガを描き始めた。出版社に最初に持ち込んだのも、動物の世界を描いた短編。それが好評を博し、「週刊少年チャンピオン」での『BEASTARS』の連載につながっていく。

    悪者の印象に悩む

     この作品が独創的なのは、動物の擬人化によって他者への偏見があからさまに、ユーモラスに可視化されていることだ。その意味では動物マンガではない。

     「レゴシを主人公にしたのは、童話などでオオカミが悪者になるから。それはイメージの問題ですよね。だから、そういうことに悩む男の子を描きたかった」

     草食獣が弱者として守られる一方、肉食獣は牙と爪を封じられた社会。両者は平和に共存しているが、それに不満を持つ裏社会の肉食獣たちもいる。レゴシやハル、またアカシカのルイといったキャラクターたちは、その種族に生まれた宿命を背負いつつ、精いっぱい生きようとする。

    真の多様性とは

     この作品のテーマを「多様性」と表現することも可能だろう。だが、板垣さんは、この言葉に慎重だ。

     「多様性は全く違う者同士が1対1で会うことから生まれるドラマ。第三者的な高い所からの視点で『みんな平等だから認め合おう』というのには違和感がある。本当の多様性は、自分の中の偏見を否定しないことから始まると思う」

     例えば「この人、私を食べたいと思ってるだろうな」という相手と、友だちや恋人になれるのか。「人間同士のコミュニケーションにもリスクがある。でも、相手を怖がることと、相手に興味を持つことは矛盾しない。違う者同士の出会いにこそ驚きや喜びがあるし、文明も進化もあったんじゃないかって思う」

     人間が主役では重過ぎるテーマだろう。しかし、板垣さんの世界ならば、ユーモアさえ交えて表現できる。これは、マンガ史上まれな“発明”ではないか。(編集委員・石田汗太)

    2018年05月04日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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