文字サイズ
    本にまつわる全国、世界各地の最新ニュースをお届けします。

    『モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語』刊行…内田洋子さん

    情報網担った本の行商

    • 「イタリア人も知らないイタリアの歴史に興味があった」(東京都千代田区で)
      「イタリア人も知らないイタリアの歴史に興味があった」(東京都千代田区で)

     『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社、1800円)は、イタリアの山奥の村で生まれた本の行商が、出版社と書店をつなぐ出版取次業へ成長する歴史を追った本だ。著者の内田洋子さん(58)に、知られざる歴史について聞いた。

     ベネチアにある行きつけの古書店主から、先祖が本の行商人をしていたと聞き、その出身地であるトスカーナの小さな村モンテレッジォを訪ねた。こんな山奥から本の行商が生まれ、やがてイタリア最初の出版取次業に成長したと聞き、興味を持った。

     「最初はなぜ?の連続。文字も読めない貧しい人たちが本を売り歩くなんて想像できなかった」。本はどこから入手したのか、どうやってイタリア全土を行脚したのか。最大の謎はなぜ、ここから始まったのか。

     ナポレオン戦争から間もない1816年、ヨーロッパは記録的な冷夏に見舞われた。農作業の出稼ぎ仕事を失った村人たちは、教会が発行する御札おふだや暦を売り歩く行商を急いで組織して村を救った。やがて出版社から売れ残った本を融通してもらい、19世紀後半にかけてイタリア全土に行商するネットワークが作られた。

     「現在のインターネットに匹敵するような情報網を担ったのが、モンテレッジォの本の行商人でした。その結束力と商人魂には驚かされます」

     山深いモンテレッジォは、古くから交通の要衝で人の行き来が盛んだった。近隣には15世紀に当時最新の技術だった活版印刷を試みた村もある。村を取り巻く歴史と地理的条件が、旅する本屋の原点につながった。

     日本の本屋大賞の先輩格とも言える、イタリアの著名な文学賞「露天商賞」もこの村から生まれた。本屋によって選ばれる同賞は1953年に始まり、第1回受賞作はヘミングウェーの『老人と海』だった。

     こうした歴史はイタリアでもほとんど知られていないという。「まとまった資料もなく、自分で調べるしかなかった。村に通い、多くの人を訪ね歩いて話を聞くうち、『本が本を呼ぶ』ように、いろんな事が向こうから押し寄せてきた」

    • 『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)
      『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)

     じっくり調べれば10年はかかるという内容を、8か月ほどで約350ページの本にまとめた。「執筆中は自分で書くのではなく、何者かによって書かされている感じでした」。写真も多く収められている。

     イタリアに40年近く住み、ジャーナリスト、エッセイストとして様々なジャンルを取材してきた。第二の故郷であるイタリアで取り組んだ「温故知新」は、今までの文筆活動の集大成の一つと話す。

     「インターネットの普及で、出版を巡る環境は世界的に厳しさを増している。この先、読書が担ってきた文化はどうなるのか。モンテレッジォから未来へのヒントを得たいと思います」

     本と本屋を巡る物語は、イタリアを舞台にこれからも続きそうだ。

    日伊の児童 交流計画

    • 村の広場にある本の行商人の石碑(c)UNO Associates Inc.
      村の広場にある本の行商人の石碑(c)UNO Associates Inc.

     人口わずか30人ほどの現在のモンテレッジォは、日本の「限界集落」に近い村。生活は不便そのものだ。内田さんは、そんな村の子どもを勇気づけようと、東京都目黒区の区立五本木小学校に働きかけ、モンテレッジォの子どもたちが通う近隣の小学校と交流する計画に取り組んでいる。

     「巨大都市・東京の学校とイタリアの片田舎の学校は、何もかも対照的。その分、子どもたちには発見が多く、よい意味でお互い刺激になると思います」

     昨年、イタリアの小学校に通う8~9歳の子ども約30人に自由に絵を描いてもらった。「露天商賞」を受賞したヘミングウェーの『老人と海』の一場面を描いたモンテレッジォの子もいて、村の伝統を誇りに思う気持ちを感じたという。

     内田さんは、子どもたちを東京に招きたいと考えている。イタリア側も乗り気。「この本をきっかけに日本とイタリアの交流をぜひ実現させたい」。本の世界から現実へ、夢は広がる。(松本良一)

    2018年05月18日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク