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    『滅びの園』を刊行…恒川光太郎さん

    絶望の中 希望を幻視

    • 10年以上暮らした沖縄から、2年前に東京へと移り住んだ。「海には十分行ったから、別なことをしようと。子供にも内地の自然と、“北国”の四季を味わわせたいと思った」(東京都千代田区で)=池谷美帆撮影
      10年以上暮らした沖縄から、2年前に東京へと移り住んだ。「海には十分行ったから、別なことをしようと。子供にも内地の自然と、“北国”の四季を味わわせたいと思った」(東京都千代田区で)=池谷美帆撮影

     これは絶望と、そして希望の物語だ。恒川光太郎さん(44)の『滅びの園』(KADOKAWA)は、異世界で穏やかに暮らす男と、謎の生物の増殖で危機にひんする地球を巡る長編小説。幻想的な作風で知られる作家は、ディストピア(反ユートピア)的なファンタジーで新境地を開いた。

     ブラック企業で過酷な日々を送る誠一は、記憶を失い、異世界に紛れ込む。親切な人々に囲まれて暮らす誠一の元に、やがて衝撃的な内容の手紙が届き始める。地球に巨大なクラゲのような存在がとりつき、その影響で地上には「プーニー」と呼ばれる謎の生物が増殖、多くの人が命を落としている。誠一はこの巨大な存在の核を破壊できると期待されているというのだ。人類を救うために、妻と娘と暮らすこの異世界を滅ぼすのか――。誠一のエピソードとともに、プーニーに翻弄ほんろうされる地球の物語がつづられていく。

     「震災などのニュースを見ていたことが、書く衝動につながったかもしれない」。構想が芽吹いたきっかけを、作家は朴訥ぼくとつとした口調で振り返った。「災害は色んな地域で起きていますが、起きていない場所では、テレビの中の情報のように思われてしまうかもしれない。ある地域の裕福さが、別の貧困地域を犠牲にしていることもある。それが人間の社会なのか、と」

     プーニーは白い餅のようなユーモラスな姿だが、形を自在に変え、食べた動物が同化することで増殖を続けていく。プーニー化を受け入れて緩慢に死に向かう人や、自暴自棄になる人もいれば、局所的な大量発生による事故で命を落とす人もいる。多くの生物が絶滅していく。登場人物の一人は、こう思う。〈白くて一見雪景色だけど、もちろん地獄絵図だ〉。凄惨せいさんな状況にもかかわらず、そのイメージは静穏だ。「地球の生物界が腐って、溶けていくイメージがあった。きれいに死んでいくというのは、怖いじゃないですか」

     一方、この物語は滅亡に向かう世界の中で、人々が希望を求めて生きようとする物語でもある。多くの人々は、プーニーの脅威におびえながら、日常を取り戻そうとする。プーニーへの耐性が人並み外れて高い女性は、体質を生かして人を救う仕事に就く。世界を救うために決死の突入隊となる人も現れる。「書いてできあがった絵が、地獄絵図になるのは嫌だなと。過酷な中で人が頑張る姿を描きたかった」。絶望のふちにあって、わずかな希望を幻視するラストシーンは、かなしく、そして美しい。

     『夜市』をはじめとする日本的な情緒を漂わせるホラーから、SF的な時代小説、異世界ファンタジーまで、幻想的なイメージを縦横無尽に広げて作品をつむいできた。物語は、夜にベッドに入って考える。断片的なアイデアは、あえてメモを取らない。記憶の中に眠らせていたイメージが時間をかけて醸成され、物語となるのを待つ。以前に読んだ本や漫画、生活の中で出会った自然や廃虚などが、空想の下地となるという。

     「リアリズムより、どこかにお化けのようなものがいた方が面白いと思ってしまう。心の好奇心や創作欲求がそちら側に向いている。ずっと妄想してきたことが物語の設定になるんじゃないかしら。なかなか湧いてこないので、1年に1作が限界です……」

     異能の作家は、あくまで穏やかに語った。(川村律文)

     ◇つねかわ・こうたろう 1973年、東京生まれ。2005年に「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビュー。この作品を収録した同名の単行本は直木賞候補になった。14年に『金色機械』で日本推理作家協会賞を受ける。著書に『無貌の神』『ヘブンメイカー』など。

    ◎お気に入り

     ★ドラム練習パッド 友人と音楽スタジオで遊んでいるので、練習をするために買いました。こんな物ではうまくいかないと思いきや、頭の中にドラムセットをイメージしてたたくと、割と上手になるんです。パソコンの横に置いていて、音楽を聴きながら叩くこともあります。

     ★折りたたみ自転車 車に子供の自転車と一緒に載せたり、バッグに入れて持ち運んだりしています。車輪は小さいのですが、軽いので普通の自転車と同じぐらいのスピードが出る。のんびり街を走っています。

    2018年06月14日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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