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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『シベリア抑留』 富田武さん

    世界的観点から悲劇探る

     1945年8月に対日参戦した旧ソ連は戦後、約60万の日本軍将兵や一部の文民を各地の収容所で強制労働につかせた。その「シベリア抑留」の実態を長年、ソ連政治史や日ソ関係史を研究する成蹊大名誉教授の著者が伝えた。

     「ソ連のスターリン体制下で行われた抑留は、本当にひどいものです。しかし、日本人が悲惨な目にあったと語る狭い見方だけでは、真の姿は分かりません」

     不潔な貨車での捕虜の移送。栄養失調やしらみ、寒さのため、チフスなどの伝染病が発生し、最初の冬で5万人近くが犠牲になったという。抑留は数年から11年に及んだ。

     シベリアの苦難と同時に、南樺太や北朝鮮などの日本人居留民に対して行われた抑留も紹介する。一方、ソ連は200万人余りとされるドイツ軍などの兵士も捕虜にして働かせ、逆に独ソ戦前半では、優位に立つドイツがソ連人を捕虜にしたことも記した。

     世界史的な観点で抑留を深く捉えた。著者自身も大伯父が3年間の抑留を経験したという。個人的な思いと研究の関係は、「もちろん大伯父のことを含めて研究には動機はある。だが歴史家は、それらと距離を取るものです」と語る。

     1945年生まれ。学生時代の60年代は、東西冷戦下だった。「当時の学生は、現実の社会主義はおかしくなったけれど、まだ理念は生きていると思っていた。ソ連はなぜあんな官僚国家になったか。イデオロギーではなく、歴史研究で迫りたかった」

     さらに、「公文書を読めば社会や政治のシステムは分かる。でも、歴史を知るうえで大切なことは想像力。回想録を読み、人の話を聞き、思いを寄せられなくては」と話す。インタビューを終えた後、取材先の大学で著者が教え子と偶然会った姿を見た。優しい表情をしていた。(中公新書、860円)待田晋哉

    2017年02月14日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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