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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『カタストロフ・マニア』 島田雅彦さん

    すぐ役立たない大切さ

     余談だが、作家はラッコの話がお好きのようだ。弁舌にわかに熱を帯び、「ラッコは泳ぎが下手。だから貝やウニなど他の種と競合しない餌、つまりニッチ(隙間)を見つけて生き延びたんですよ」。

     持論は「ニッチを探した種は強い」。2013年に出した『ニッチを探して』(新潮社)では、銀行員の中年男が失踪、東京の下町をさまよう。同作に登場した赤羽や東十条などで酒場巡りを始めたのは12年前。「やってみたらハマった。僕は基本、ほっつき歩いてアンテナを張っている」

     2036年が舞台の本作は『ニッチを探して』の続編という。太陽フレアが原因の磁気嵐、原発事故、謎のウイルス、AI(人工知能)による洗脳。陰謀が渦巻き、人間淘汰とうたが始まる中、主人公ミロクが生存の道を探す。自給自足のコミュニティーが現れ、極限のサバイバルでなくユートピアが描かれる。

     ミロクをゲーマーのフリーターに設定したのは、「生産活動をしない“ヘタレ”も支え合う社会にすべき」だと考えるからだ。「今すぐ役立たなくても、後に生かせるものを作ったから人類は繁栄した。資本主義社会で余計だとされる知識や存在こそカタストロフ(破局)の時に役立つ」

     東京外大在学中の1983年、「優しいサヨクのための嬉遊きゆう曲」でデビュー。20歳代で6度芥川賞候補となるも落選。軽妙な文体と鋭い観察眼が武器の小説はとがった印象を与えるが、東日本大震災後にサイン本を販売、被災地に寄付する運動を始めたのはこの人だ。ヘタレの話もしかり、有言実行の人である。

     いわゆる文系の学問が冷遇される風潮を「滅びる準備をするようなもの」と批判する。「今すぐ読まれる情報だけの本はカタストロフの時に役立たないでしょ? この本は別ですけどね」(新潮社、1600円)

     武田裕芸

    2017年07月25日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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