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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『裕次郎』 本村凌二さん

    大スターとたどる昭和

    • 本村凌二さん
      本村凌二さん

     古代ローマ史の泰斗もかつては“今どきの若者”だった。東大の大学院生時代、恩師から「日曜に学会があるので手伝ってほしい」と頼まれ、「(競馬の)ダービーがあるから行けません」と断り、唖然あぜんとさせた。ただ、趣味の馬の歴史を極め、『馬の世界史』でJRA賞馬事文化賞を取ったのだからただ者ではない。

     新作も趣味路線で、小学4年の時に「嵐を呼ぶ男」を見て以来、青春時代をともにした石原裕次郎映画10本を通し、あの時代を振り返った。

     「会ったことはありませんが、渡哲也さんらの回顧談を読むと、誰にでも分け隔てなく、悪口も言わなかったという。明るい肌のぬくもりがスクリーンからも伝わり、シビレましたね」

     カエサル、マゼランなど賢人51人を描く『世界史の叡智えいち』(中公新書)でその一人に裕次郎をあげた歴史家による本は、回想にも学問がある。経済白書に「もはや戦後ではない」と記された年に初主演した「狂った果実」(1956年)に始まり、テレビが白黒からカラーになり、60年安保、東京五輪など成長と変化の激しい時代がいかに裕次郎映画に反映し、時代がいかに昭和の大スターを変えたかを浮き彫りにした。

     「また余技をしてると思われるので苦しい弁明をすると、実はギリシャ・ローマ時代の歴史家ヘロドトスやトゥキディデスが書いたものも、今から見ると古代史ですが、当時は同時代史なんです。で、僕にとっての同時代史は戦後であり、裕次郎なんです」

     もちろん、カラオケで裕次郎の曲を100曲以上歌い、中原中也の詩を曲にした「骨」を愛唱するファンは、思い入れもたっぷり込めている。

     今年古希を迎え、書き終えて「もう雑念を捨て、本業に専念します」とちょっと苦笑いしながら宣言した。(講談社、1600円)

    鵜飼哲夫

    2017年08月29日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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