文字サイズ
    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『ヒストリア』 池上永一さん

    沖縄の“魂”、南米で躍動

     20年ほど前、帰省していた沖縄で見たテレビの映像が脳裏に焼き付いている。三線さんしんを奏でていた子どもたちが、曽祖父が使っていたような古い言葉で話していた。「アフレコかと思った。ショックだった」。その映像で沖縄からのボリビアへの移民のことを知ってから、長く「宿題」としてきた物語の題材だった。

     沖縄戦で家族を失った女性・知花煉ちばなれんは、生き残りはしたがマブイ(魂)を落とし、戦後には米軍の諜報ちょうほう部隊に追われ、ボリビアへと渡る。入植地での過酷な生活と、現地の人々と繰り広げる波乱万丈の日々。中南米の現代史の裏側で、肉体の煉とマブイの煉の“二人”がそれぞれに躍動していく。

     煉は革命家のゲバラへ恋心を抱き、執拗しつようにつきまとう米軍諜報部隊のバルビーと駆け引きを繰り広げる。何度も痛い目に遭いながら、煉はしたたかに立ち上がる。「すかして、打ちのめされた時に魅力的。ゲバラの主役性に負けてほしくなかった」と語る。一方で、南米に渡ってからも、煉は沖縄戦を夢に見る。「内部ではなく、移民の目で沖縄戦を見ることで、自分が納得する視点が得られた」。豊穣ほうじょうな物語は、現代の沖縄に通じる問題をも視座にとらえる。

     石垣島で暮らしていた中学生の頃、読みたい本が周囲になく、図書館で琉球国の正史を読んでいた。「行政文書の中に怪談話などが入り込む、虚実が混ざった感じが沖縄」だと感じた。それは、マジックリアリズムのような池上ワールドにも通じるものだ。

     「俺にとって小説は自分で遊べるおもちゃ。せっかくいい遊び場が出来たのだから、百鬼夜行じゃないとダメだし、それに耐えうるフレームを作る」。少年時代から養った強靱きょうじんな想像力が、類例のない物語を生み出している。(KADOKAWA、1900円)

     川村律文

    2017年09月05日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク