文字サイズ
    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『《誕生》が誕生するまで』 池田学さん

    大画の樹に災害と希望

     荒々しい波に洗われながらも力強く天に向かって伸び、色とりどりの花を咲かせる大樹が画面いっぱいに描かれている。緻密ちみつな線で壮大な世界を描き出す気鋭の画家が、3年3か月を費やして昨年11月に完成させた縦3メートル、横4メートルの大作「誕生」だ。

     近づくと、根元に絡まったレールや道路、飛行機、電車、花びらを形作るテントやプロペラなどが、1ミリにも満たない線で描かれている。

     この巨大画1枚だけについて語ったのが本書だ。「自由に見てほしい」と、作品を語らない作家も多いが、あえて制作過程での出来事を紹介し、52か所もの部分ごとの解説を盛り込んだ。「この作品を世に残すためにも書き残さなければいけないと思った」

     カバーを外して広げると裏側には「誕生」の全体像が現れる。解説する部分に振ってある番号を頼りに、作家による「ガイドツアー」を読み進めるという趣向になっている。

     制作のきっかけは、当時暮らしていたカナダで知った東日本大震災。「表現者として、どう災害と向き合うかを考え続けた」。米国の美術館で滞在制作の機会を得て、大画面に思いをぶつけた。

     次女と三女の誕生、高校の同級生だった親友の死、右肩の脱臼と利き手ではない左手でのドローイング……。たくさんの出来事を経験しながら、世界中で起こりうる災害の脅威、破壊と再生、希望と絶望といった複雑な現実を大樹という生命体で表現した。

     「自分の可能性をすべてつぎ込んだ」大仕事を終えた今、波など不定形なものの描き方を掘り下げていきたいと、瞳を輝かせた。それは再び長い道のりを一歩一歩進み始める覚悟の証しだ。

     佐賀や金沢を巡回した「誕生」は、10月9日まで開かれる東京・日本橋高島屋での個展で見られる。(青幻舎、1800円)

    森田睦

    2017年10月03日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク