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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『肉弾』 河崎秋子さん

    北の大地と極限の生

    • 河崎秋子さん
      河崎秋子さん

     北の大地で牛や羊を育てる38歳の作家は、自然に対する「怖さ」が拭えないという。「飼っている動物や野生動物を見ていると、こいつらは私を殺しうると感じる」。一方で、逆のことも思う。「人間だって他の生き物を殺しうる。どれだけ大きくても、感染力が強くても、必ず」

     そんな意識が生んだ異形の物語だ。引きこもりだったキミヤは、父に連れられて北海道の山に熊撃ちに入る。そこで出くわしたのは、凶暴な熊と、野犬の群れだった。父が熊に襲われ、銃も手放したキミヤは、森の中で彷徨ほうこうを始める。「全くよりどころをなくした時に、人間はあきらめきれるのかと考えた」と語る。

     過酷な状況の中で、キミヤは人生観さえも変わるほどに変貌へんぼうしていく。野犬ののど笛に食らいつき、熊の耳にかぶりつく場面は、強烈な生命力に満ちている。

     大学時代に文芸サークルで小説を書いていたが、「まだ人生経験が薄い」と卒業後は数年間、農業に没頭した。現在は北海道別海町の実家で、早朝から夜まで酪農と羊飼いの仕事と、家事に追われる。休日さえほとんど無い中で、「夜の2、3時間」を執筆にあてる。「人生を酪農の仕事だけで終わらせてたまるか、と」。ハードな仕事は、表現への欲求を生み出す。

     前作の『颶風ぐふうの王』(KADOKAWA)は、極寒の地での人と馬の関わりを描いた秀作だった。極限状態の中で生のきらめきを描く姿勢は、自然と身についたものだ。

     「方向を間違えたら死ぬような吹雪でも、羊にえさをやりに行き、難産の介助をする。普通に仕事をしているだけでも、ちょっとした命の危機を感じることはある。そんな要素が、意識していなくても出てくるのかもしれません」

     澄んだで、静かに語った。(KADOKAWA、1600円)

    川村律文

    2017年11月07日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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