文字サイズ
    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『東北おんば訳 石川啄木のうた』 新井高子さん

    土と海のにおいの響き

    • 新井高子さん
      新井高子さん

     『一握の砂』などで知られる岩手県出身の歌人、石川啄木(1886~1912年)の短歌100首を東日本大震災後、大船渡で「おんば」と呼ばれる年配の女性たちと地元の言葉に訳し、一冊にまとめた。

     <せぇでも せぇでも なんぼせぇでもらぐになんねァ じィっと っこっぺ>

     これは、生活の苦しさを詠んだ<はたらけど はたらけどなほわが生活くらし楽にならざり ぢつと手を見る>の翻訳。海や大地のにおいがする温かな響きの歌に変わった。

     「おんばたちは、文語で詠まれた啄木の短歌を土に近いところへ降ろす。明治に単身で上京した啄木が持つ『身一つで生きる』感覚が、戦争や地震などを経験したおんばたちの言葉により、ユーモアを伴って引き立ちました」

     1966年、群馬県桐生市生まれの詩人で、埼玉大で外国人の日本語教育にもかかわる。東北は学生時代、文化にひかれて訪ねたという。震災後、詩で何かできることはないかと、岩手県北上市の日本現代詩歌文学館の協力を得て2014年から大船渡市で仮設住宅の集会所を訪ね、啄木を訳すプロジェクトを始めた。

     地元の出身ではない著者が訳文に濁音をつけ過ぎ、「何でも点々つければいいわけでねえ」としかられたこともあった。2年かけて100首を訳し、地元の詩人とともに1年かけて推敲すいこうした。一人称の「おらァ」の語尾の表記を「ぁ」でなく「ァ」とすることで、「おら」から来た言葉だと分かるような工夫も施した。

     「学校で勉強した標準語とは違う管理されていない肉感的な言葉のほとばしりが、大船渡の言葉にあります。現代詩人の詩より面白いとさえ思った。腹を割ってつき合える現地の友達もできました」

     話しながら、よく笑う人だ。(未来社、1800円)

     待田晋哉

    2017年12月05日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク