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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『幼年 水の町』 小池昌代さん

    詩の水脈、子供の風景

     東京・深川に生まれた詩人に頼み、地元近くの隅田川にかかる永代橋で写真を撮った。「私の中には、いつも『水』の存在があります。幼い頃よく見たのは、隅田川につながる仙台堀川や小名木おなぎ川。よどんで、水の面のようでした」

     現代詩花椿賞など多くの詩の賞を受賞し、『タタド』など小説でも知られる1959年生まれの著者が、初めての幼年記を出版した。

     新木場に材木屋の多くが移る前の深川は、木材関係の職場が並んでいた。自身の実家も材木商で、両親は忙しく構ってもらえなかった。内気な自分と朗らかな1歳年下の妹。寺の境内で見た不思議な紙芝居――。

     「時間があり余っていたから、親の仕事場に出入りする人をじっと見る子供でした。野蛮で、生命力みなぎるものが転がっていた。心から消えない幼年時代をもとに、私は詩を書いてきた気がします」

     著者は現在、山の手に住む。いつも応援してくれていた父が1月、本書を出した後、88歳で死去した。「英語の教師になりたかったのに家業を継ぐことになり、この街しか知らずに亡くなった。狭い地域で生き、死ぬ人が住む土地があることも書きたかった」

     幼年期の記憶とともに、詩の水脈も深く掘り起こされた。本著の刊行と重なるように7年ぶりの詩集『野笑のえみ』(澪標)を出版した。

     <幾度も捨てようと思った詩が/黒い汚水となって足元へ流れてきた>「死んだあとも伸びる」と題した一編に、こんな言葉があった。

     「30年前の詩を書き出したときの気持ちになりたくて、詩集のために全く散文を書かない時期を作った。そうしたら、詩が戻って来たんです。詩は詩のことしか考えないと許さない高慢ちきな生き物ですね」。熱を込めて語り、冬の雑踏に消えて行った。

     (白水社、2200円)

     待田晋哉

    2018年03月06日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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