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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『昼も夜も彷徨え』 中村小夜さん

    言葉の力で平和を説く

    • 中村小夜さん
      中村小夜さん

     〈己の信じるものを守れる場所を見つけるまで、昼も夜も彷徨さまよえ〉

     12世紀、イスラム教とキリスト教がせめぎ合う地中海沿岸地域で、ユダヤ教神学中興の祖・マイモニデスは同胞に迫害から逃れるよう説いた。たとえ他の宗教を信仰していると偽ってでも生き延びよ、と。自身もスペイン、シリア、エジプトをさすらった。

     本書はマイモニデスの波乱に満ちた生涯をつづった歴史物語。日本では知名度の低い人物ゆえ、書き終えてから出版までに数年を要した。初の小説が世に出てさぞかし高揚しているかと思いきや、「正直、待ち疲れました。原稿を抱えて編集者を訪ね歩き、私がさまよっているみたいでした」といたずらっぽく笑う。

     2000年前後にエジプトやシリアに住んだ経験を生かし、当初はイスラム世界を題材にするつもりだった。だが、イスラム王朝の宮廷侍医も務めたマイモニデスが、著書や言説で平和を唱えた姿勢に共感し、方向転換した。言葉の力にひかれるのは、本業がコピーライターだからだろう。

     「史料で人となりを知るのが面白かった。学者でお医者さんというとお堅いイメージでしたが、筆跡は荒っぽいし、書簡では毒舌だし、賢者の顔とは相反する一面を持っている。頭の中で自然にキャラクターが動き出し、物語の泉をくみ出すように書いた」

     献身的な弟ダビデ、沈黙する碧眼へきがんの美女ライラ、宮廷随一の切れ者カーディ・ファーディルら、他の人物も魅力的だ。一つ一つの出会いや別れが読み手の胸に迫ってくる。

     舞台は中世だが、宗教間の溝が取り沙汰される現代への示唆も含んでいる。「ニュースはネガティブなものばかりで生々しい。マイモニデスの存在が、イスラム教やユダヤ教に興味を持つきっかけになればうれしい」(中公文庫、1000円)

     淵上えり子

    2018年03月20日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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