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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『知性は死なない』 與那覇潤さん

    うつ状態からの再起動

    • 与那覇潤さん(岩佐譲撮影)
      与那覇潤さん(岩佐譲撮影)

     27歳で博士号を取り、すぐに准教授に。「中国化」などの概念をキーワードに日本史を読み直した『中国化する日本』(2011年)は、論壇で話題をさらった。だが14年春に、そううつ病(双極性障害)のうつ状態に悩まされる。

     夏には急速に病状が悪化し、文字を読んでも意味が頭に入らない。会話もままならず、入院や休職を経て17年に大学を退職。回復した今、世の誤解を解くうつの考察や、一度は知性を失った立場から見えた平成の思潮史を、本書にまとめた。組織人としては書けなかったことも自由に書けたといい、「言いたいことを言えないのは、メンタルヘルス(心の健康)に良くないとつくづく思った」と笑う。

     自分がかかるとは思わなかった頃、うつは人ごとだった。欺まんに満ちた大学や知識人の世界に対する不満はあったが、それが病気の原因かどうかは分からない。調子が悪いのも単なる意欲不足ではと疑った。だが、病だと分かり、築き上げてきた能力が内側から消えていく恐ろしさに涙した。厳しい能力主義の学問の世界で、実績をあげなければなめられるとの強迫観念にとりつかれ、講義後は毎回、研究室で横になるほど疲弊していた。「身体が、言語で駆動する知性にもうついていけないと主張をして、うつを発症したのでは」と振り返る。

     同じような構図を、平成の思想界にも見て取る。緻密ちみつな理論と言葉で先導する知識人よりも、行動や身体性を優先する識者や政治家が人気を得るようになった。言語を拒絶するような世界の現状を記録するとともに、それでも知性の重要性を訴えたかった。「大学や書物の世界に閉じて」いたという反省を踏まえ、身体的な違和感と言語による思索の双方を大切にすれば、知性は本来の輝きを取り戻すのだ、と。

     (文芸春秋、1500円)

     小林佑基

    2018年05月08日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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