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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『過去と和解するための哲学』 山内志朗さん

    悔いて絶望しない

    • 山内志朗さん
      山内志朗さん

     成績が優秀なのに、むなしさを覚える若者。高い学費を払ってもらい、周囲から期待されるものの大きさに苦しむ学生。慶大で倫理学などを教える60歳の教授は、自分を持て余す若い世代を見てきた。

     「人生とは、自分にとって敵対するものではないことを感じ取ってほしい」

     編集者の助言で親しみやすいイラストのカバーを使い、過去や人生との向き合い方を柔らかく説く一冊を出した。

     <過去をやり直すことができないとしたら、なぜ人はこんなに過去を思い悩み、後悔するのか>

     本の中ではまず、自分の中に理由のない後悔や罪悪感を抱える人に向け、問いを投げ掛ける。そのうえで自らが専門とする中世哲学や倫理学、古今の文学、新海誠のアニメーション映画『君の名は。』などにも触れ、どんな考え方をすれば、心の持ち方が楽になるか考察を深めてゆく。

     「自分の中に苦しい過去があっても、ただ悔いて絶望したり、裁こうとしたりするだけでは、それらと和解できない。自分を大事にして見方を変えれば、過去は自分を突き刺すものでなく、未来に向けて吹き抜ける風のように感じられることもあるのです」

     山形県出身。哲学を勉強しようと大学進学で上京した。だが、年齢の近い東京の学生は、すでにフランス現代思想のフーコーを読んでいた。「実存主義って結局、プチブルの思想だね」などと言われて口ごもった。酒を飲み、パチンコをやり、試験をさぼってマージャンをし、それが響いて留年を経験したという。

     「人間はいつも理性的に動けるわけではないですね。行動に駆り立てるのは情念。概念より情念に興味があります」。近年は、『湯殿山の哲学』などの著作も執筆する。独特の抑揚がある話し方が、聞き手をなごませる。(大和書房、1700円)

     待田晋哉

    2018年06月12日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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