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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・稲泉連(ノンフィクションライター)

    『ぼくの道具』 石川直樹著

     写真家で冒険家の著者が、自身の愛用する旅の道具を紹介したエッセイ集である。

     ヒマラヤ登山の装備、山で原稿を書いたり写真を撮ったりするための仕事道具、あるとちょっと便利な小物まで、体験に裏打ちされた品々が並ぶ。イラストや写真も多く、登山好きの人は特に興味が尽きないのではないか。

     道具は一つ増えるごとに、その旅の制約にもなりかねないものだ。GPSは便利だが、使えなくなった時に無力となる。一方で星の運行を使うミクロネシアの伝統的な航海術では、そのような問題は生じない。何を持ち、何を持たないか。その判断は極地では命の問題なのだ。だからこそ「その土地の環境に合わせて自分を変化させる勇気を持ち、生きるための知恵を身に付けようと努力」することこそが重要だ、と道具論の本質を著者は突く。そうして初めて道具は自らの旅を軽く、自由にしてくれるのだ、と。

     一つひとつの解説からは、登山や旅の過酷さ、それ故の醍醐だいご味が伝わってくる。一貫したまなざしによって選ばれた道具が映し出すのは、冒険家のストイックな世界観だろう。

     平凡社 1500円

    2016年03月28日 05時22分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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