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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・朝井リョウ(作家)

    『明るい夜に出かけて』 佐藤多佳子著

    ラジオが照らす暗闇

     友達と遊ぶ夜、恋人とデートをする夜、家族と食卓を囲む夜――「明るい夜」には様々あるだろうが、この物語の登場人物たちは、ラジオを聴くことでそれぞれの暗闇を照らし出す。

     落語、サッカー、陸上競技など、様々なフィールドで名作を生み続けてきた著者が次に光を当てたのは、深夜ラジオだった。主人公は、訳あって有名ハガキ職人だった過去を封じている大学生・富山。大学を休学し実家を飛び出した彼は、同じラジオ番組にネタを投稿している一風変わった女子高生・佐古田や、ニコニコ動画では“歌い手”として活躍するコンビニバイト仲間・鹿沢など、新たな仲間と出会っていく。そこに富山の過去を知る同級生・永川も加わり、彼らはそれぞれが抱えるいびつな何かを飼いならせないまま、ラジオやニコニコ動画、アメーバピグ等を通して感情を交わし合い、現実の世界での関係を深めていく。

     この作品の素晴らしいところは、友情、恋心、若者たちの成長など、青春小説に臨む読者の期待に存分に応えてくれるだけでなく、この時代だからこそ生まれた新しい感情、人とのつながり方をとてもフラットに描いている点だろう。

     顔が見えない者同士の電子の繋がりとは、冷たく、血の通っていないものとして認識されることが多い。そんな古臭い風潮にのっとり、「人間同士、直接顔を合わせて言葉を交わすべき」なんて判を押したような説教を若い世代にしたって意味がない。この作品のように、電子で繋がるからこそ受ける傷を、その上で立ち直り生き抜くたくましさを、そんな時代だからこそ見つけられる新たな光を提示するのが、作家の役割だろう。特に物語の佳境、とあるハッシュタグを含んだツイートが大量発生するシーンからは、きっとまだどの小説にも描かれたことのないだろう新鮮な熱が感じられる。既に代表作を幾つも持つ著者が、描く感情を更にアップデートしている姿は、私にはとても明るく輝いて見える。

     ◇さとう・たかこ=東京生まれ。作家。作品に『一瞬の風になれ』『しゃべれどもしゃべれども』『聖夜』など。

     新潮社 1400円

    2016年11月07日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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