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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・宮部みゆき(作家)

    『七四』 神家正成著

    戦車で起きた密室殺人

     タイトルの『七四』は「七四式戦車」の意味である。本書の舞台は陸上自衛隊、富士駐屯地。整備工場に置かれた一台の七四式戦車のなかで、ある幹部隊員の遺体が発見される。戦車という密室のなかの死体。当然自殺と思われたが、自衛隊内の犯罪捜査を行う中央警務隊あてに匿名の告発電話がかかってくる。あれは殺人だ、と。調べてみるとその電話の発信元は、駐屯地内にある当の死者の席だった――

     私はミリタリー関係に全く疎いので、言われてみればそりゃ当然だというバカな驚き方をしてしまったのですが、戦車の「密室度合い」は生物兵器や放射能汚染にも対応できるほど半端ないのですね。その動く完全密室を制御するのは厳しい訓練を受けた隊員たちと、最先端のコンピュータソフトウェア。たとえば、七四式戦車の後継機種の一つ一〇式戦車(映画「シン・ゴジラ」のタバ作戦に出てましたね)について、ずばり「一〇式戦車(ヒトマル)なんて動くコンピュータですからね」という台詞せりふがあります。そう、このハードなミステリーの核心にはソフトがある。あくまでも本格謎解きミステリーであって、軍事ミステリーではないところが本書の特徴であり、最大の魅力だ。

     ただ、ページを開くと冒頭からミリタリー用語と自衛隊内の機構や階級、規律等に関する専門用語がどっと押し寄せてくるので、ちょっと不安になるかも。私も最初はそうでしたが、どうぞご心配なく。三ページもある登場人物一覧表が便利だし、まさしく戦車のように重心が低く安定した文体も頼もしい限りで、ゆっくりついて行けば決して迷わない。中央警務隊側の主人公・甲斐和美は「働く女」の清々すがすがしい理想型。外部にいるもう一人のキーマン、悩める経営者・坂本孝浩の過去は――。組織と個人の拮抗きっこうを背景に、現代社会の罪と罰をがっつり描けるミステリーは警察小説だけじゃない。そう高らかに宣言する新鮮な快作だ。

     ◇かみや・まさなり=元自衛官。2014年、『深山の桜』で「このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞を受賞。

     宝島社 1680円

    2016年12月12日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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