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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・稲泉連(ノンフィクションライター)

    『野心 郭台銘伝』 安田峰俊著

     今年8月、3888億円の出資手続きを終え、シャープを傘下に収めた鴻海ホンハイ。本書は年間約17兆円を売り上げる台湾の巨大企業と、それを一代で築き上げた“テリー・ゴウ”こと郭台銘かくたいめいの実像を、現地での取材によって丁寧に描いたルポルタージュである。

     日本では謎めいたぬえのような印象のある鴻海は、EMSと呼ばれる受託生産で拡大を続けてきたグローバル企業だ。40年前、零細の町工場から事業を始めた郭は、いかにしてこの巨大グループを経営してきたのか。著者は郭とかかわった実業家、現地メディアの報道、さらには私生活にも分け入ることで、彼と鴻海の虚実を多面的に描いている。読んでいるとシャープの未来がおぼろげに見えてくるようで、それは本書が優れた企業ルポであるからだろう。

     冒頭の記者会見の緊張感あふれる描写からして、郭が異様な迫力を持った経営者であることが伝わってくる。その人物像を見つめる著者の対象との距離感が絶妙だ。郭の家族観と経営観を交差させつつ、経営者としての空疎な一面までを浮かび上がらせた筆致に読みごたえがあった。

     プレジデント社 1600円

    2016年12月26日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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