<速報> 定員超過のこども園、兵庫県が認定取り消し
    文字サイズ
    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・高野ムツオ(俳人)

    『貸本マンガと戦後の風景』 高野慎三著

    猥雑で混沌とした世界

     マンガは戦後生まれの精神形成を語るに欠かせないサブカルチャーだ。そのマンガを供給してきたのは小説等と同様、定期刊行誌や単行本。新刊販売が主で、最近は電子書籍化も進んできた。だが、基本は変わらず続いている。一九五〇年代、マンガ文化の礎となった別の供給形態とそれを支えたマンガ分野があった。貸本マンガである。その魅力と価値について、伝説的なマンガ誌「ガロ」の編集者が豊富な体験をもとに当時を語ったのが本書なのだ。

     目のうろこを剥がしてくれる言及が随所にあふれている。例えば、中澤しげおの『すみれの花咲く頃』など少女マンガの主人公が薄幸で、貧しさを生き抜くテーマが多いのは、当時の社会状況の反映という指摘。浮浪児の靴磨き、少年少女スリなど当時の現実を伝える場面も描かれ、そこにノスタルジーに終わらないリアリティがあるとも述べる。

     それは四コママンガにも共通している。秋好馨あきよしかおるとどろき先生』、塩田英二郎『ミーコちゃん』などは、五〇年代終わりの社会の動きを実に生き生きと伝え、庶民にとって「笑い」とはなんであったかを教えてくれるという。貸本マンガの担い手作家といえば水木しげると白土三平だが、白土のマンガは手塚治虫が現実から乖離かいりした理想主義に強く傾いていたのに対して、現実生活のなかでの具体的な理想社会に向かっていたと強調する。それゆえ現実感を伴ったヒューマニズムが表現できたということだ。

     『忍者武芸帳 影丸伝』に登場する女性「蛍火」に、のちの宮崎駿のアニメ世界の女性との共通点も見い出している。他にも貸本マンガが戦後、どうマンガ文化を作り上げたか、興味深いエピソード満載である。

     読み進むうち少年だった自分が、なぜ、あんなに夢中で暗く狭苦しい店で貸本マンガをあさっていたか、理由がわかってくる。健康な精神世界とは別の、猥雑わいざつ混沌こんとんとした世界にこそ真実があると無意識に嗅ぎ取っていたからではないか。

     ◇たかの・しんぞう=1940年、東京生まれ。「ガロ」編集者などを経て、北冬書房代表。著書に『つげ義春漫画術』。

     論創社 2500円

    2016年12月26日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク