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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・岡ノ谷一夫(生物心理学者・東京大教授)

    『短歌を詠む科学者たち』 松村由利子著

    科学と歌をつなぐ物語

     科学は具体から普遍を導き、詩は普遍を具体に結実する。詩と科学を物語でつないだ美しい本である。私も実は趣味で短歌を詠む者なので、大いに楽しむことができた。7人の科学者の研究と人生折々の歌が紹介される。

     すでに古典となった歌人から。道ならぬ恋ゆえ東北帝国大学教授を辞し科学ジャーナリストとなった石原純の「雨滴の楽譜をでもつくらうと、うつとりわたしはそれに聞き入つてゐる」。美と科学の同時性。精神医学者・斎藤茂吉が留学先で研究中断を命ぜられ詠んだ「小脳の今までの検索を放棄せよと教授は単純に吾にいひたる」。行き詰まりと無念さ。物理学者・湯川秀樹が広島と長崎への原子爆弾投下に際して詠んだ「この星に人絶えはてし後の世の永夜清宵何の所為ぞや」。自らの学問がもたらした寂寥せきりょう感。物理学者・湯浅年子がβ線の測定に際し詠んだ「淡雪のあはさに消ゆる霧の跡ながむる刹那を我がとこしへに」。発見のときめき。

     同時代を生きる歌人から。生命科学者・柳沢桂子が病床で詠んだ「今生は病む身に耐えて生き抜こう後生は白い椿になりたい」。諦観と生命への愛。細胞生物学者・永田和宏が詠んだ「わが見つけわが名付けたる遺伝子をもてるマウスを手の窪に載す」。発見の喜び。情報科学者・坂井修一が詠んだ「あわだちて物質主義マテリアリズムの淵にゐるたましひのこといかに記さむ」。歌詠みであり科学者であること。

     以上、歌人が科学者として詠んだ歌を本書から集めてみた。湯川は、科学も文学も「すっきりと美的であるものを期待する点では同じではないか」と言う。永田は、これらは「何の関係もなく」この二つを「一人の人間が生涯かけてやることに何の必然もない」と言う。統計的にはたぶん永田が正しく、主観的には湯川が正しい。文理の乖離かいりと情報技術の暴走により人間性の危機を感じる今、詩と科学が自然に共存できる詩形として短歌があることを救いに思う。

     ◇まつむら・ゆりこ=1960年、福岡県生まれ。新聞記者の後、フリーに。著書に『31文字のなかの科学』など。

     春秋社 2200円

    2016年12月26日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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