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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・長島有里枝(写真家)

    『ブラインド・マッサージ』 畢飛宇著

    心揺さぶる豊かな世界

     筋肉のしくみについて書かれた冒頭の一節に興味をかれて本書を手に取ったが、肩凝りを治すヒントは得られなかった。でも、良い裏切りだったと言える。この小説は、南京の「沙宗●マッサージセンター」で働く、盲目の若者たちの日常を描いた群像劇だ。登場人物はそれぞれに野心や夢や欲望……とりわけ恋愛やセックスの……を持ち、受付や食事係の健常者も巻き込んで、愛や成功をつかもうと奮闘努力している。(●はへんが王つくりが其)

     店と寮の往復が日課の彼らの人間関係は複雑だ。盲学校の同級生だった沙復明を頼って深センからやってきた王先生は、婚約者の小孔のマッサージ店を出すという野望を持つ。地道に働いてこしらえた貯蓄を株で失い、小孔との結婚に踏み出せないでいる。事情を知らない小孔は、煮え切らない王先生に不満を感じるいっぽう、王先生と同室の小馬を弟のように可愛かわいがる。二十歳そこそこの初心うぶな小馬は小孔を姉のように慕うが、やがてそれは淡い恋心に変わる。

     見えないことが、彼らの決断や行動、性格に影響を及ぼしている。沙復明は、マッサージセンターの実質的な店長だ。共同経営者の張宗●や、王先生とともに三十代半ばを超えているが、恋愛に縁がない。ある日、店に来たテレビ関係者のグループが、休憩室にいる都紅の美しさを褒めたたえるのを聞き、都紅に恋をする。盲人にとって美とは何か、と沙復明は自問する。(●はへんが王つくりが其)

     彼らの行動は、中国人の慣習や考え方にも基づいている。中国の慣習と盲人の生活どちらにも親しみのないわたしは、読み進めるほどに彼らと自分の違いより、共通点を見つけることのほうが多かった。センターの日常は女性たちの確執をきっかけに崩れ始め、都紅に起こるある悲劇によって新しい局面を迎える。最後の最後にもうひとつ事件が起こり、従業員たちは各々おのおのの未来を見つめざるを得なくなる。人間の営みの美しさに加え、視覚を失った人たちの豊かで深い世界に心を激しく揺さぶられた。飯塚容訳。

     ◇ビー・フェイユイ=1964年生まれ。作家、南京大教授。『玉米』でマン・ブッカー・アジア文学賞を受賞。

     白水社 3400円

    2016年12月26日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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