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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・朝井リョウ(作家)

    『コンピュータが小説を書く日』 佐藤理史著

    AIが問う人の倫理観

     AIが人間の仕事を奪う。それどころか人類を支配する可能性がある――人工知能はそんな文脈で語られることが多い。「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」による小説が星新一賞の一次選考を通過した時もそうだった。不可侵だといわれていた芸術分野についにAIが、なんて、AIを人類の敵に見立てるような報道内容に抵抗を感じた人も少なくないだろう。

     この本では、先述したプロジェクトの文章生成班に所属している著者が、AIが小説執筆の100%を担ったという類いの誤解が多い中、自身の研究内容を正しく伝えるべく丁寧に言葉を重ねている。著者は、小説を、あらゆる形の部品をマニュアルに沿って組み立てる“ブロック玩具”に例える。現状のプログラムでは、ブロック玩具でいう部品(10文字前後の短い文章)と、マニュアル(物語の起承転結)は人間が作っており、使う部品によって変わりゆくマニュアルから目指す完成形に最も近づく一つを選択する、という作業を機械が担当しているという。部品を作ったのは人間で、組み立てたのは機械。その小説の創作者は、どちらだろう。

     後半、こんな記述がある。<「コンピュータが小説を書けた」のであれば、それは「小説を機械的に作る方法(アルゴリズム)がわかった」ということです>。著者は言葉を変え、賢くなったのは機械ではなく人間なのだと繰り返す。その冷静な筆致からは、いつの時代だって問われているのは私たち人間の倫理観なのだということを実感させられる。

     また、この本は、自分にとっての「小説」の定義を考える機会を与えてくれた。起承転結があれば小説なのか、小説とそうでない文章の違いは何か、既知の言葉や感情を組み立ててできた小説の著者は誰なのか――様々な疑問が解消されると同時に新たな疑問が生まれるこの本は、AIに対し言語化できない抵抗感を抱いている人こそ手にすべき一冊だ。

     ◇さとう・さとし=1960年生まれ、北海道出身。名古屋大学教授。専門分野は自然言語処理・人工知能。

     日本経済新聞出版社1500円

    2017年01月30日 05時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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