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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・柳川範之(経済学者・東京大教授)

    『故事成語で読み解く中国経済』 李智雄著

    推理小説を読むように

     隣国である中国は、今や世界の大国だ。その経済動向は、日本だけでなく世界全体に大きな影響を与える。

     しかし、その中国経済の実態はあまり明らかとは言えない。経済的結びつきの強い隣国だが、中国経済のことを知らない、よく分からないと思っている人はかなりいるのではないだろうか。

     そこには様々な理由があるのだろうが、一つの理由は、中国経済に関する統計が、必ずしも信用のおけるものではないと多くの人が感じているせいかもしれない。

     本書でも、冒頭部分で、中国の国内総生産(GDP)があまりあてにならないという話が出てくる。地方のGDPを足し合わせると、国全体のGDPを上回ってしまうというのだ。

     けれども、だからといって中国のことはよく分からないと諦めてしまうわけにはいかない。限られた統計、不十分なデータから、何とか正確な実態を把握していく必要がある。

     本書はそのための多くの手がかりを与えてくれる。たとえば、政策動向をみるうえでは、工業生産のデータに注目したほうが良いといった記述が出てくる。また、国が重視している指標には、どのようなものがあり、市場で注目されている指標にはどのようなものがあるかといった解説もある。

     そして、単にデータの特徴を記述するだけではなく、たとえば日本の高度成長期のデータと照らし合わせながら、それぞれの統計がどこまで信ぴょう性があるかを検討している点や故事成語を用いた各章冒頭の解説なども興味深い。

     完ぺきではない情報やデータを、いろいろと駆使しながら、どうやって真の実情に迫っていくかというのは、ある意味では推理小説を読むような面白さがある。

     何より、中国ではどんな統計がどう公表されているかが詳細に説明されているのは、とても有用だ。これらをいかに活用するかが、きっとますます重要になっていくのだろう。

     ◇リ・チウン=韓国生まれ。東京大客員准教授などを経て、三菱UFJモルガンスタンレー証券シニアエコノミスト。

     日経BP社 2800円

    2017年02月06日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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