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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・長島有里枝(写真家)

    『アメリカーナ』 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著

    自分に正直であること

     厚さ四センチ、本文が二段組の本書は、アフリカ、欧州、北米を股にかけた壮大なラブストーリーであると同時に、「女性」に可能な選択肢の指南書のようでもある。

     ナイジェリア人のイフェメルは十三年暮らしたアメリカを去り、故郷に帰ろうとしている。移民なら誰もが欲しがる永住権まで手に入れた彼女が、自分を有名にしたブログを閉じ、コンドミニアムを売り払い、恋人と別れて帰国するのは、初恋の相手オビンゼが忘れられないからだ。大都市ラゴスに住むオビンゼはいまや大金持ちで、美しい女性と結婚して一児の父となっているが、彼もまたイフェメルを忘れられずにいる。

     高校時代からの恋人だった二人は、国の政治情勢が悪化して大学卒業の目処めどが立たなくなったとき、アメリカへの留学を決めた。まずはイフェメルが旅立ち、オビンゼはそれを追うはずだったが、同時多発テロが起きて「黒人男性」にビザが下りなくなる。オビンゼを待つイフェメルは生活に困窮し、ある出来事をきっかけにオビンゼとの連絡を絶つ。お互いに後ろめたい気持ちのままそれぞれの道を歩み、物語の最終盤、ようやくラゴスの街なかで再会を果たす。

     ロマンチックな恋愛小説であるだけでなく、「黒人」であること、移民であること、女性であることについての鋭い考察が、余すところなくちりばめられている。ナイジェリアの度重なる政権交代やオバマが初当選した大統領選が恋人たちを翻弄するさまに、恋さえ政治とは切り離し不可能、と思い知らされる。フェミニストとしても知られる著者は、どこであれ結婚や教会、不倫相手に依存して生きる女性がいて、そうでない女性もいることを淡々と描く。イフェメルは失敗を重ねながら、最後はいつも自分に正直であることを選ぶ女性だ。自尊心を捨てずに生きることは可能かつ最善の選択だと思わずにいられない物語は、多くの女性を励ますはずだ。くぼたのぞみ訳。

     ◇Chimamanda Ngozi Adichie=1977年、ナイジェリア南部生まれ。『アメリカーナ』で全米批評家協会賞。

     河出書房新社 4600円

    2017年02月06日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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