<速報> 北が弾道ミサイル発射、失敗か…韓国報道
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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・安藤宏(国文学者・東京大教授)

    『幕末明治 新聞ことはじめ』 奥武則著

    ジャーナリズムの誕生

     題名からは草創期の「ことはじめ」を連想するが、それにとどまらぬ奥行きに驚かされる。

     マス・メディアとジャーナリズムとは概念がちがう。あらたなメディアが革命的に広まる時、そこに公共性を持ったジャーナリズムが根付くためにはなお多くの努力が必要だ。その意味でも幕末の「かわら版」と舶来のメディアである「新聞」との間には乗り越えるべき大きな壁があった。世論の形成のためには事実の正確な記述が必要だし、それに対する責任ある論評、さらには投書などで異説を表明できることが求められる。時には公権力とさまざまな綱引きが展開されることもあるだろう。本書の最大の魅力は、「新聞」という新たなメディアの普及に尽力した九人の姿を通し、近代のジャーナリズムが産声を上げていくプロセスが生き生きと描き出されている点にある。

     そこには日本語の「新聞」作りに心血を注いだイギリス人たちの姿もあり、また、遭難して米国に渡り、「新聞」の概念を持ち帰った日本人もいた。たとえば岸田吟香ぎんこうのように現地取材による正確な報道の先駆けとなった人物もいれば、福地源一郎のように、「論説」の重要性にいち早く注目していた人物もいたのである。虚報や誤報の多い新聞や権力の側の「御用」新聞は、たとえ一時的に部数を伸ばしても、結局は自然淘汰とうたされてしまう運命にあった。

     重要なのは、これらが決して過去の風物詩ではないということだ。今日われわれは、ネット社会の到来という、幕末明治に匹敵するような変革期を迎えている。われわれはまだこのあらたなメディアにどのような「公共性」を付与するかについて、明確な答えを持っていない。メディアは世論をつくるが同時にメディアもまた世論によってつくられる。百数十年前に「新聞」を通してパブリック・オピニオンが形成されていったその苦闘のプロセスは、今日、あらためて多くの示唆を与えてくれることだろう。

     ◇おく・たけのり=1947年、東京生まれ。法政大教授。元毎日新聞論説委員。『メディアは何を報道したか』など。

     朝日新聞出版 1500円

    2017年02月20日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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