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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・青山七恵(作家)

    『おばちゃんたちのいるところ』 松田青子著

    心を満たす妖気と元気

     『女道成寺どうじょうじ』『牡丹ぼたん灯籠』といった落語や歌舞伎の演目をモチーフとする十七へんの短篇小説集。一篇ごとに、この人に会いたい、話をしたい、助けてほしい、できれば友だちになりたい……心からそう願わずにはいられないほどチャーミングな人たちが次から次へと現れる。でもその人たちは、たいてい死んでいる。

     本書に登場する死者たちは、それぞれの“技”を磨いて、脱毛サロンに通う若い女性に毛の力を説いたり(「その毛はなあ、あんたに残された唯一の野性や」なんて活を入れてくれる幽霊、最高だ)、働くシングルマザーの幼い子どもを見守ったり、味気ない生活にむ独り者と湯船で一緒に戯れたりする。読み進めるうちにわかってくるのだが、どうやらどこかに、有能な死者をスカウトしてお香の製造や訪問販売に携わらせる不思議な会社があるようだ。その会社には死者だけではなく生者も働いているし、どっちつかずの人もいる。おばちゃんがわりあい多いらしい。とはいえ生死を問わず皆、すばらしく充実した仕事ぶりだ。各々おのおのの得意分野を生かし、自分にできることを飄々ひょうひょう粛々しゅくしゅくと完璧にこなすそのプロフェッショナルな就業態度には、思わず手を合わせて拝んでしまいそうになる。

     働く幽霊は生者について、「死ぬ肉体を持っているって、ものすごく窮屈だ」と言う。本当にそうだと思う。人は有限の肉体と有限の時間に縛られ、事あるごとに自分がこの世で何をすべきか、何に生き甲斐がいを求めるか、自問して答えに窮する。でも中には、ここに出てくる幽霊たちのように、死んで初めて自分の才能を発揮する人だっているんじゃないだろうか。生きている間にやりがいのある仕事に邁進まいしんしたり、心から信頼する誰かと人生の妙味を共有できたら、それはもちろん喜ばしい。でもお化けになってから、天職や運命の相手を見つけたっていいのかも……? 読んだ後、気づけばわけのわからない妖気と元気で心が満たされている。

     ◇まつだ・あおこ=1979年、兵庫県生まれ。著書に『スタッキング可能』『英子の森』など。

     中央公論新社 1400円

    2017年03月13日 05時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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