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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・奈良岡聰智(政治史学者・京都大教授)

    『アメリカ大統領は分極化した議会で何ができるか』 松本俊太著

    政権の行く末を見通す

     アメリカ大統領は、国際的に大きな影響力を持っているが、国内の政治構造に目を向けると、実は権限の小さな「弱い大統領」である。厳格な三権分立制が取られているため、大統領が議会に行使できる影響力は限られている。オバマ前大統領が議会対策に苦しみ、政権の一枚看板だった医療保険制度改革が後退を余儀なくされたことは記憶に新しい。

     二〇世紀前半は、戦争や福祉国家化の進展のため、「行政の長」たる大統領が立法でも主導権を発揮することができた。政党組織が緩やかで、議会での自由投票が少なくなかったことも幸いした。ところが、一九七〇年代以降、政権与党と議会多数党が一致しない「分割政府」が常態化し、二大政党の差異が拡大する「分極化」が顕著となった。こうした中で、大統領は「政党の顔」としての役割が増し、二大政党の対立を助長しがちになった。今では、大統領が議会との対立をどう乗り越えるかが、大きな課題となっている。

     本書は、このような変化に適応した大統領のあり方とは何かと問い、計量分析と事例研究を通して精緻な検討を行っている。論証部分はかなり専門的だが、論旨は明快で分かりやすい。著者は、大統領が望む立法を実現する上では、議会への積極的介入よりも、野党に妥協し、政治的得点を与えることのほうが重要であると主張している。クリントンが北米自由貿易協定(NAFTA)批准や福祉改革に成功したのは、「曖昧な立場表明と保守的なレトリック」を駆使するなど、こうした手腕にけていたからだという。

     トランプ大統領の誕生後、彼の発言や人事に関心が集まりがちであるが、今後は議会との関係も一つの大きな焦点となろう。現在与党共和党は上下両院で過半数を握っているが、絶対多数は占めていない上に、内部も一枚岩ではない。トランプ政権は、議会とどう対峙たいじするのだろうか。本書は、その行く末を見通す上で有益な視点を我々に与えてくれる。

     ◇まつもと・しゅんた=1976年大阪府生まれ。名城大准教授。専門は政治過程論で、特に現代の米国と日本の政治。

     ミネルヴァ書房 6000円

    2017年03月20日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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