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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

    『愉しい学問』 フリードリヒ・ニーチェ著

    哲学の喜びへ導く箴言

     この本を見よ。――ニーチェは今も人気者である。アンソロジーでつまみ食いして知った気で安心してはいけない。この箴言しんげんのスタイルでしか書けないことを、その通りに読む。血と汗を流さずに、まして高らかに笑うことなく読むことができないのが、この人なのだから。

     たのしい学問。――『よろこばしき知識』といった名で知られてきた主著が、ドイツ語直訳のこのタイトルで新たに登場した。その学問とは哲学である。訳者の言を聞こう。「知ること、見てとること、考えることは、愉しくうれしく悦ばしいことであり、その愉悦は至福をもたらすと、哲学者は古来、おのれの愛欲の営みをゆるぎなく肯定してきた。…もしこの世に救いがあるとすればコレだ、という確信を本書がらしていることを、敏感な読者は聴きとるであろう」

     時代批判。――時代を見る遠近法が必要である。時代を見失っている時代、時代を批判することが時代遅れとされる時代。だが、時代は批判者にはるかに遅れをとった…

     時代遅れ。――われわれが一番の国家だ、最高の民族だ、そんな声を張りあげる者はいきでない、彼はドイツ人をそう評した。私たちはその美的感覚を忘れてしまっている。

     ポスト真理。――「人間がまた新しい神を立てたのね」。真理の女神はヴェールの下で笑って言う。「でも、私をないがしろにする者は『生』を損なうのよ」。ニーチェほど彼女をのぞきこんだ人間もいない。この男を素通りして、この女神の前も後も語ることはできない。

     翻訳は労多くして…。――日本語になったニーチェの言葉、それは雪解けをもたらす春風のように、私たちを哲学の悦びへと導いてくれる。ゆっくりと、長い時間と体験をかけて。

     書物。――いかなる書物も超えた彼方かなたへわれわれを連れ去ることが全然ないような書物に、何の意味があろう。(本書248番より)

     森一郎訳。

     ◇Friedrich Nietzsche=1844~1900年。ドイツの哲学者。本書に合わせ、書評も箴言形式をとった。

     講談社学術文庫 1450円

    2017年03月20日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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