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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

    『悲愛』 金菱清編

    あふれる被災地の肉声

     今日は、三月一二日である。「あの日」から七回目の三月一一日の、次の日だ。車中泊のクルマで激しい余震に襲われながら、ひたすら夜明けを待っていた六年前の今朝を思い出す。そこに、今日のこの原稿である。正直、本書を読むにも評するにも胸中のざわめきが鎮まらなかった。

     本書には「失なわれたもの」たちへの残されたものたちからの手紙、三十一通が収録されている。逝ってしまった家族への、消えてしまった住みなれた町への、流されてしまった愛犬への、そして特別な「あの人」への手紙である。書き手のひとりに、私の知る人もいた。逝ってしまった家族への、二人称の呼びかけが胸をえぐる。訥々とつとつとした静かな筆致からなおさらに、絶叫が、絶唱が聴こえる。書き手のこころが叫んでいる。なぜ、と。

     宮城県仙台市の東北学院大学の金菱清教授(社会学)が学生たちと進める〈東北学院大学震災の記録プロジェクト〉の一冊である。昨年は、被災地で語られる「タクシー幽霊」のレポートが話題となった『呼び覚まされる霊性の震災学』が出ている。どれも被災地に暮らす私たちの肉声があふれて、ざわめきを鎮められずにいるのが独りではないのを伝えてくれる。

     さらに願わくは、本書を東北被災地の外に暮らす人たちにこそ手に取ってもらえれば、本書から東北の「いま」を生きる私たちの肉声を聴き取っていただければ。「復興」とやらの本質は、目に見えるモノにではなく、おそらくはそこに生きる人たちの内奥にこそあるのだから。いや、だけではない、ここにある「叫び」は、この災害列島にあって、いつあなたの「叫び」となるやもしれないと感じ取ってもらえれば、東北の被災地の声としてだけでなく「明日の被災者」たるあなたがここにいると、そう受け止めてもらえれば、胸のざわめきを抑えながらページに静かな「叫び」を刻み込んだ手紙の書き手たちの意も報われる。そのはずだ。

     ◇かねびし・きよし=1975年、大阪府生まれ。東北学院大教授。著書に『震災学入門』など。

     新曜社 2000円

    2017年03月20日 05時28分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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