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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・苅部直(政治学者・東京大教授)

    『福祉政治史』田中拓道著/『不平等を考える』齋藤純一著

    社会保障の現状と改革

     福祉国家としての日本のあり方は、大きな再編を迫られている。それまでの政治・経済の体制がすぐれた福祉国家と呼べるか否かの判断はわきに置こう。いずれにせよバブル経済の崩壊ののち、一九九〇年代から日本社会が、格差の拡大、少子高齢化、財政赤字といった現象に悩んでいる。それは誰もが認める現実である。

     これに対して、いわゆる「新自由主義」的な規制緩和の改革や、「コンクリートから人へ」の政策転換が行われてきた。しかしいずれもその場しのぎの対策にすぎず、ヨーロッパ諸国が政策の体系を組みなおして、社会保障の水準を維持したような動きは見られない。

     なぜそうなったのか。田中拓道『福祉政治史』は、十九世紀からの歴史をたどり、欧米各国との比較を通じて、広い視野のなかで日本の過去と現状の特徴を明らかにする。現在の日本に求められている選択肢は、これまでの保守・リベラルの対立によって思い描かれるようなものではない。雇用の場を拡大して正規・非正規の待遇の差をなくす「ワークフェア」型の政策パッケージと、多様なライフスタイルの保障を重視する「自由選択」型のそれと。二極の改革のあいだの競争にそって政治が動いてゆくことを、今後の道筋として展望している。

     しかしそもそも、どうして不平等は是正されなくてはいけないのか。「自由選択」と言うときの「自由」とはいかなる意味か。齋藤純一『不平等を考える』は、そうした原理上の諸問題から、政治と経済のあるべきつながりを論じている。人々が市民として対等な関係のなかで生きてゆくこと。平等はそのための条件として求められるのであり、したがって本質的に、政治決定についての「理由」を市民たちがたずね、討議する営みに結びついてゆく。

     日本の現状と改革への道。この二冊をあわせ読むと、歴史と思想の深みを経由しながら、それがくっきりと浮かびあがってくる。

     ◇たなか・たくじ=1971年生まれ。一橋大教授。

     勁草書房 3000円

     ◇さいとう・じゅんいち=1958年生まれ。早大教授。

     ちくま新書 880円

    2017年04月03日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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