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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

    『自閉症と感覚過敏』 熊谷高幸著

    身体的経験に寄り添う

     自閉症は、従来、社会性やコミュニケーション能力の障害と考えられてきた。しかし近年、「感覚」に焦点を当てた新たなアプローチが生まれている。自閉症の当事者は、そもそも視覚や聴覚などの感じ方が定型発達の人とは違っており、そのことが通常の規範とは異なる振る舞いを生んでいるのではないか、というわけだ。外から観察した異常性によるラベリングから、当事者の身体的経験に寄り添った世界観の理解へ。1990年代以降、東田直樹さんなど当事者による言葉が蓄積されたことが、こうしたアプローチの転換を後押しした。

     自閉症当事者の多くに見られる感じ方の特徴は、過敏さと鈍感さの共存である。一見矛盾しているように見えるが、その仕組みはこうだ。ある刺激が入ってくる。するとそれを拡大して、細部まで詳しく見てしまう。すると許容量がいっぱいになり、他の刺激を取り入れることができなくなる。結果、見落としてしまうのである。

     だから彼らは、複数の感覚を結びつけて理解することが苦手だ。雨粒は見えているのに、雨の降る音がどこから来ているのか分からず、過度に驚いてしまう。目や鼻といったパーツに注意が傾いて、それらの関係としての「顔」を読み取ることができない。書く指先の感覚に集中すると体幹の感覚が消え、椅子から床に落ちてしまう。この「身体をバラバラに感じる」という当事者は多いようで、彼らが飛び跳ねるのは、身体の一体感を取り戻そうとしているのではないかと著者は言う。

     感じ方の特徴が分かれば、関わる仕方も見えてくる。感覚が固着しやすいから、「とりあえずやってみて、試行錯誤しながら進む」のが苦手だ。「迷いながら見つける」が難しいのである。ならばあらかじめ選択肢を用意しておき、「選びながら先に進む」支援が有効だ。今後さらなる展開が期待される新しいアプローチを切り開く一冊である。

    くまがい・たかゆき=1947年愛知県生まれ。福井大名誉教授。著書に『自閉症の謎 こころの謎』など。

     新曜社 1800円

    2017年04月10日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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