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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・柳川範之(経済学者・東京大教授)

    『貧困と闘う知』 エステル・デュフロ著

    課題解決に真剣な姿勢

     著者は、将来ノーベル賞を取る可能性がかなり高いと言われる、著名な経済学者。しかも単に抽象理論を論じるだけではなく、現実に寄り添い、現実の課題を少しでも解決しようと奮闘している研究者だ。本書からは、そのような著者の姿勢がまっすぐに伝わってくる。

     取り組むのは、低開発国の経済問題。教育や健康の問題、金融をいかにうまく機能させるか、汚職をいかに防ぐかなど、多岐にわたる。そして、駆使するのは、ランダム化比較実験と呼ばれる、著者が中心となって取り入れてきた手法だ。

     近年日本でも、きちんとした統計データに基づいて政策を評価しようという動きが広がってきた。開発や援助の現場においても、感情論や思い込みではなく、データが重要なことは間違いない。しかし、厳密な政策効果をデータで把握するのは容易ではない。政策以外の要因による影響が混在する可能性があるからだ。政策の対象となる人とならない人をランダムに選んで比較するランダム化比較実験は、その問題を克服し、政策の効果を厳密に把握するのに有効だ。これによる記述は小気味よい。

     また、たとえば汚職がどのように行われているのかは、通常簡単には分からない。分かるはずのない汚職の実態を、いかに計測するかといった工夫も説明されている。

     ただし、効果の程度が計測できたとしても、それがなぜなのか、どうしたら良いのかの答えが直ちにわかるわけではない。著者はその点について安易な答えを提示したりせず、真摯しんしに検討する。その姿勢こそが、本書の内容に説得力を与えている原動力だと思う。

     一方、日本のような先進国の読者が、自国の問題を考えるうえでも、十分示唆に富んだ内容になっている。特に最初の章で語られている教育問題に関する記述は、日本でどんな教育が望ましいかを考えるうえでも、多くの気づきが得られる。峯陽一、コザ・アリーン訳。

     ◇Esther Duflo=マサチューセッツ工科大教授。著書に『貧乏人の経済学』(共著)などがあり、受賞歴も多数。

     みすず書房 2700円

    2017年04月17日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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