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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

    『遥はるかなる他者のためのデザイン』 久保田晃弘著

    物が引き出す創造性

     日本のメディアアートを牽引けんいんしてきた著者によるデザイン論。だが新しい身体論としても読める。たとえば、コンピュータの中で自動生成するプログラムにしたがって、音楽が奏でられる様子を想像して欲しい。このときコンピュータはもはや「道具」ではない。演奏家が即興で楽器をつまびくように、プログラムがじかに曲を作り出している。本書で描かれるのはそんな、プログラムを「指」と、コンピュータを一つの「身体」と考えるような感性である。

     道具でない、とは思うままに支配する相手ではない、ということだ。そのときコンピュータは、本書のタイトルにあるように、それだけで自律した「他者」である。こうした前提から、著者は人工物と人間のあいだの最も創造的な関係を考える。提言は意外なものだ。簡単には支配されないようなデザイン、つまり一見使いにくいようなデザインこそ、望ましい人工物の姿ではないか、と。

     スマートフォンなどの「直感的なインターフェイス」に慣れた我々には、にわかには受け入れ難い提言かもしれない。だが、たとえばシンセサイザー。電子的な楽器であるにもかかわらず、開発・販売の過程でキーボードという馴染なじみのあるインターフェイスがつけられた結果、人々はその電子性を無視して既存の音楽の常識を当てはめるようになってしまった。人間はパターンの生き物である。だからこそ、パターン的発想がずらされるようなデザインこそ、人間の創造性を引き出すと著者は言う。

     賛否両論あろう。だが人工物の捉え方は、それと関わる個人が持つスキルの程度に左右される。パソコンに限っていえば、各国でプログラミング教育が強化されつつある今、いずれ母国語と同じようにコンピュータ言語を使いこなす子供たちが増えていくだろう。本書は、そんな未来の人類のためのデザイン論・身体論なのかもしれない。

     ◇くぼた・あきひろ=1960年生まれ。多摩美術大教授。バイオ分野を新たな芸術媒体として研究している。

     ビー・エヌ・エヌ新社 2600円

    2017年04月24日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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