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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

    『外来種のウソ・ホントを科学する』 ケン・トムソン著

    害悪論、科学的再考促す

     冒頭で著者は、ラクダはどこの動物かと問う。中東だと思うだろうが、本当にそうかと。

     ラクダ類は八千年前まで永らく北米で繁栄し、それが分布を広げて北アフリカと南西アジアにヒトコブラクダが、そして中央アジアにフタコブラクダがむに至った。また野生のヒトコブラクダは現在、オーストラリアにしかいない。こう見ていくと、ラクダの本来の分布地は曖昧あいまいになり、翻ってみるに、外来種という概念も揺らいでくる。著者はこうした事例を列挙して、外来種と見れば条件反射的に駆除対象としてきた、これまでの保全策に疑念を呈す。

     もともとは著者たちが六年前にネイチャー誌で発表した意見論文に始まる議論だけに、調査・解析は徹底している。論の組み立ても明快で、論証も極めて具体的だ。それらを通じて著者は、外来種の繁栄を促しているのは、人間の都市化という営みそのものであることを強調する。そして外来種に対してこれまで主張されてきた、生態系の破壊や環境悪化といった罪状の多くが、誤解にすぎないことを示す。

     私自身これまで、猛威をふるう外来種は当然駆除すべき対象と考えていたが、駆除にかかる膨大な費用と手間に比べ、駆除対象生物が与える害が意外に小さいことをデータで示されると、世界各地で採られてきた外来種防除計画の多くは、失敗だったと思わざるを得ない。

     ただしその著者も、特定の事例においては外来種が実際に生態系に多大な被害を与えたことを認める。それを考慮すると本書は「外来種」に対し、弁護が過ぎる印象もないではない。しかし著者はその点、実害をもたらしてきた外来種は、人為的に導入されたものであること、またそれを促した環境攪乱かくらんも人間活動それ自体が原因だと指摘する。

     生態系保全に関し、生き物の顔ぶれを人間側はどこまで制御でき、すべきなのか。科学的に再考することを促す好著である。屋代通子訳。

     ◇Ken Thompson=生物学者。英国シェフィールド大で動物、植物科学を教える。ガーデニングにも詳しい。

     築地書館 2400円

    2017年04月24日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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