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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

    『熊本地震2016の記憶』 岩岡中正、高峰武編

    多角的に災害に迫る

     熊本地震一年に刊行された記録集である。「おもう」「詠む」「書く」「つなぐ」「資料」の五章構成、熊本被災地に暮らす『逝きし世の面影』の渡辺京二さん、熊本日日新聞の記者、大学教授、俳人、古書店主などなど九人が文章を寄せて、体験記録、震災詠、被災日記、熊本を襲った過去の震災史と、多角的に今回の災害に迫っている。

     東北被災地の読者としては「やはりそうか」と深くうなずきながらページを繰る。二〇一一年の私たちの姿が声が、そのままここにある。嘆きも悲しみも、希望も絶望も、後悔と決意も、全てが六年前の私たちのそれとまっすぐに繋がっている。遠く離れた熊本の人たちの文章を読みながら、己が被災を想起せずにはいられない。ああ、そうだった、と。本書はその意味で、東北被災地の読者に初心を取り戻させてくれる一冊でもある。だけに、やりきれなくももどかしくもある。悲劇はなぜ繰り返されるのか。経験者の声は、次なる被災者になぜ届かないのか。

     防災・減災は可能としても、自然の営みそのものは止められない。春に桜が咲き、六月に雨が降り、夏の暑さに秋の紅葉、そして冬の雪と四季の移り変わりばかりが自然の営みではない。地震、噴火、台風、津波、洪水、大雪などなどこれまたすべてこの島国の自然の営みだ。そこに人が暮らしているからこその「災害」であって、温暖化云々うんぬんの議論はあるにしろ実相はただあり得べき自然現象でしかない。大地のくしゃみに、生活を破壊され、生命まで奪われて、生き残った人間はあたふたとおののく。そんな島国に私たちは暮らしていると、常に意識すべきなのだ。

     神戸は一月、東北は三月、熊本は四月。折に触れてその記録に目を通していただければ、私たちの発信を受け止めていただければ。いつかあなたの暮らす土地が災害に見舞われたとき、私たちの記録がきっと役に立つと、それを願って全国の被災地からの発信は続く。

     ◇いわおか・なかまさ=熊本大名誉教授。

     ◇たかみね・たけし=熊本日日新聞論説主幹。

     弦書房 1800円

    2017年05月15日 05時22分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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