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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・奈良岡聰智(政治史学者・京都大教授)

    『「国民主義」の時代』 小林和幸著

    公平な社会を目指す

     明治政治史は、藩閥政府と在野勢力の対抗関係を主軸として描かれることが多い。伊藤博文ら藩閥指導者はどのような政治構想を持ち、いかにしてそれを実現したのか。自由民権運動は、いかなるビジョンを提示したのか。政党は、どのように政府と対峙たいじしたのか。研究の関心は、こうしたテーマに向けられてきた。

     もちろん、これらが重要な問題であることは論をたない。しかし近年は、このような二元的対立の枠組みに回収できない側面も注目されるようになってきた。陸軍内の非主流派、保守派のジャーナリスト、貴族院議員といった、従来あまり光が当てられてこなかった勢力の研究も増えている。著者は、こうした研究潮流を牽引けんいんしてきた第一人者で、前著『谷干城かんじょう』(中公新書)を発展させ、谷や彼と連携した陸羯南くがかつなん、鳥尾小弥太こやた、近衛篤麿あつまろらの政治的軌跡を明らかにしている。本書は、いわば彼らに焦点を当てた「もう一つの明治政治史」である。

     谷らはしばしば、民権派や西洋化を批判する「国権主義者」「保守主義者」と見られてきた。しかし著者は、そうした理解に疑問を呈する。彼らの政治目標の根本は、ゆるぎない独立、公正公平な社会の実現を目指す「国民主義」にあったというのが、著者の見立てである。

     本書を読むと、彼らの政治的主張に、驚くほど柔軟でバランスの取れた部分があったことが分かる。彼らは、憲法草案や各種法律案の審議を通して立憲政治の発展に寄与した。自主的外交を主張する一方で、領土拡張に抑制的な者も少なくなかった。沖縄や千島列島の住民の窮状に目を向け、足尾鉱毒事件の被害者救済運動に協力するなど、マイノリティーへの眼差まなざしも持っていた。田中正造が、運動の中心人物の一人として谷の名を挙げていたというから面白い。

     来年は「明治一五〇年」である。従来の常識にとらわれない、新しい研究が進展する契機になることを期待したい。

     ◇こばやし・かずゆき=1961年、長野県生まれ。青山学院大教授。著書に『明治立憲政治と貴族院』など。

     角川選書 1700円

    2017年05月15日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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