『「国民主義」の時代』 小林和幸著
公平な社会を目指す
明治政治史は、藩閥政府と在野勢力の対抗関係を主軸として描かれることが多い。伊藤博文ら藩閥指導者はどのような政治構想を持ち、いかにしてそれを実現したのか。自由民権運動は、いかなるビジョンを提示したのか。政党は、どのように政府と
もちろん、これらが重要な問題であることは論を
谷らはしばしば、民権派や西洋化を批判する「国権主義者」「保守主義者」と見られてきた。しかし著者は、そうした理解に疑問を呈する。彼らの政治目標の根本は、ゆるぎない独立、公正公平な社会の実現を目指す「国民主義」にあったというのが、著者の見立てである。
本書を読むと、彼らの政治的主張に、驚くほど柔軟でバランスの取れた部分があったことが分かる。彼らは、憲法草案や各種法律案の審議を通して立憲政治の発展に寄与した。自主的外交を主張する一方で、領土拡張に抑制的な者も少なくなかった。沖縄や千島列島の住民の窮状に目を向け、足尾鉱毒事件の被害者救済運動に協力するなど、マイノリティーへの
来年は「明治一五〇年」である。従来の常識にとらわれない、新しい研究が進展する契機になることを期待したい。
◇こばやし・かずゆき=1961年、長野県生まれ。青山学院大教授。著書に『明治立憲政治と貴族院』など。
角川選書 1700円