『人間はなぜ歌うのか?』 ジョーゼフ・ジョルダーニア著
敵への威嚇行動、起源?
人間は騒がしい生き物だ。チンパンジーであれば、じゃれあって遊ぶときでさえ、大声で笑ったり互いに呼び合ったりはしない。鳥などのように樹上を自在に逃げ回ることができない限り、音を立てることは、肉食獣にわざわざ自分の居場所を知らせる自殺行為に等しい。「沈黙は金」の地上で、人間だけが例外的に、進化の昔から音を出し続けてきたのである。
いったいなぜ人間はそんな危険を冒すようになったのか? 著者は、人間が文節言語を獲得する以前、つまり声で歌っていた頃にまで遡ってその答えを探す。音楽の起源と進化をめぐる、超人類史的かつ全地球規模の探求の始まりだ。
著者は、歌はポリフォニー(多声音楽)から始まった、と主張する。モノフォニー(単旋律音楽)が組み合わさってポリフォニーになったと考えがちだが、歴史的な事例を
ではそのポリフォニーを、今から五〇〇万年前の人類はなぜ歌っていたのか。著者は大胆にも、「戦うため」ではないかと言う。速く走る脚力も鋭い牙もない人間は、身体能力的には圧倒的な弱者だ。ライオンのような肉食獣に追い詰められることも多々あったろう。そんなとき我々の祖先はどうしたか。著者の仮説はこうだ。リズムに合わせて大声で歌い、地面をふみ鳴らしながら、集団的トランスのような状態を作り出すことで、敵を脅かしたのではないか。そう、猫が背中を膨らませて毛を逆立てシューッと
こうした音楽の起源と進化をたどりながら、著者は無数の魅力的な問いの種を
◇Joseph Jordania=1954年ジョージア生まれ。現在はオーストラリア在住でメルボルン大教授。
アルク出版 2900円